ルービンシュタインのショパン「幻想曲」(1962.11.27録音)ほかを聴いて思ふ

その人の思考はアウトプットするものに自ずと反映される。
アルトゥール・ルービンシュタインのショパンは楽天的だ。

ショパンは、音楽のために生き、音楽を通じて行動した天才であった。言葉の叙述によらず、楽理の注釈によらず、ただ彼の作曲の力によってだけで、手や指や肘などを用いる特殊の方法によって技術の流暢さを求めた、既存のピアノ伝統主義をくつがえした。彼は、ピアニストを学究的な法則に従うことから解放し、ピアノの演奏の領域で、各個人の自由の発展を促した。今日、ある傑作の演奏が、手や指を使用するという一方的な方法に限られていない、ということを知っても驚く者はないであろう。
(ルービンシュタイン/野村光一・千枝訳「ショパン自身のうちに求めよ」)
~「音楽の手帖 ショパン」(青土社)P49

ショパンの名作のひとつ、「幻想曲」の歌謡性。音楽は起伏に富み、旋律は美しく歌われる。
ルービンシュタインは一つ一つの音を丹念に、そして想いを込めて表現する。

シューマンは、この「幻想曲」を、「情熱的な豪胆」であると賞賛した。他の人々は、その主題の材料の配置に、ソナタ形式の要素を見た。さらに他の人々は、アイディアの連続に、バラードの物語風の特徴を見た。
―アルバート・ゴールドバーグ/岡部玲子訳
~BVCC-5080ライナーノーツ

ロベルト・シューマンの評が言い得て妙。何て愉悦に溢れる音楽であることか。

ショパン:
・ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」(1961.1.9-11録音)
・ピアノ・ソナタ第3番ロ短調作品58(1959.5.1&1961.1.5録音)
・幻想曲ヘ長調作品49(1962.11.27録音)
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)

遅いテンポで、重厚に歌われる「葬送」ソナタの、死者を送るとは思えぬ歓喜。
第2楽章スケルツォは不思議に明るい。特にトリオにある哀感の機微。
また、第3楽章「葬送行進曲」も深い呼吸で、聴く者を思わず黄泉の世界に誘う。何よりトリオの洗練!!
そして、終楽章プレストにおける走馬灯の響きは、一陣の風。

変ロ短調ソナタにおいては、ショパンの生来の反ロマン主義にもかかわらず、バイロンの影響をのがれることが全くできなかった。このソナタは、音楽的に、人の一生を表現している。冒頭主題の息を切らせたようなリズムは、人生の戦いの始まりに似ている。それは、叙情的主題の高貴な大望により和らげられるが、再び、生存の不安と動揺によって、さえぎられる。
―アルトゥール・ルービンシュタイン/岡部玲子訳
~同上ライナーノーツ

生老病死、四苦八苦。生きることは苦悩の連続。しかし、それは成長のための贈物である。
ショパンの内にある困難を、これほどまでに楽観で奏したのはルービンシュタイン以外にないのでは?

 

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2 COMMENTS

雅之

>生老病死、四苦八苦。生きることは苦悩の連続。しかし、それは成長のための贈物である。

http://classic.opus-3.net/blog/?p=22418

どんなに立派な言葉にも「裏」があります。

1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
2.仕事とは、先手先手と働き掛け、受身でやるべきではない。
3.大きい仕事と取り組め。小さい仕事は己を小さくする。
4.難しい仕事をねらえ。それを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな。殺されても放すな。
6.周囲を引きずり廻せ。引きずるのと引きずられるのとでは、長い間に天地の差が出来る。
7.計画を持て。長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て。自信がないから君の仕事は迫力も粘りも厚みすらもない。
9.頭は常に全回転。八方に気を配って一分の隙があってはならぬ。サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を恐れるな。摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと、きみは卑屈未練になる。

http://withnews.jp/article/f0161201001qq000000000000000W03610301qq000014359A

・・・・・・世間ではこの努力をみずに結果だけを見て、電通はいいという。しかしどこの会社で、小使さんから重役、社長に至るまで、午前八時から午後八時まで働いているか。(1961年)・・・・・・

「午前八時から午後八時」って結構無理なく普通の働き方だと思ったけれど・・・、ご紹介の盤の録音年代は、そんな長閑な時代だったんですかね(笑)。

そしてまた、サラリーマンは「働き方改革」を迫られています。先週の「プレミアムフライデー」とか・・・。

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岡本 浩和

>雅之様

やっぱり20世紀末以降の日本人の働き方は異常ですよね。
文明の利器が発明され便利になったお陰で労働は楽になっていくかと思いきや、逆なんでしょうね。
精神はどんどん追い詰められます。
ルービンシュタインのショパンが大らかで長閑に感じるのは時代背景のせいもあるのかもしれません。

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