こども音・楽・館2009

jim_hall_concierto.jpg妻と青山をぶらりとしていたら知人Kに出くわした。
久しぶりだからお茶でもということでカフェに入ってゆっくり寛いでいたら、件の友人の旦那Sと静岡人Yさんがお店に入ってくるではないか・・・。
偶然ならすごいが、実はこれは計画的(笑)。数日後Sが誕生日を迎えるというのでケーキとプレゼントを事前に用意。それを徐に渡して吃驚仰天。いわゆるサプライズ企画。幾つになってもこういうことって嬉しいものでしょう・・・。

今年の夏は涼しい。夜半になると窓から窓に流れる風が心地良い。こんな日にはのんびりジャズでも聴いてみようかと取り出したのがかの音盤。いつだったかBill Evansとのコラボレーション盤を採り上げたが、Jim Hallの奏でるギターは夏の一夜に洒落た一石を投じてくれる(それにChetのアンニュイなトランペットが輪をかける)。特に、名手たちがテーマを掛け合うジャズ・アレンジの「アランフエス協奏曲」はGill Evans & Miles Davisのそれとはまた違った味わいを持つ。

Jim Hall:Concierto

Personnel
Jim Hall, Guitar
Chet Baker, Trumpet
Paul Desmond, Alto Sax
Roland Hanna, Piano
Ron Carter, Bass
Steve Gadd, Drums
録音:1975.4.16&23

090801.jpgところで、午前、後学のために東京オペラシティ・コンサートホールで開催された「こども音・楽・館2009」に足を運んだ。子どものエキストラ入りの演奏や、子どもが音楽に合わせて書いた絵をアニメーション化しスクリーンで映し出しながらオーケストラ演奏を楽しむなど、なかなか手の込んだ好企画。開演前のホワイエではチェロやティンパニ、クラリネットなどオーケストラに登場する楽器を弾かせてもらって大喜びの子どもたち。子どもの頃からこうやって実際に楽器に触れる機会があるというのはいいものだ。会場にも家族連れ多数。子どもたちも趣向を凝らしたステージに一生懸命聴き入っていたようだし、何よりミョンフン&東フィルの演奏は大人の心まで引き寄せる力に溢れており、入場料も低価格で予想以上に楽しませていただいた。感謝。

第1部最初は「くるみ割り人形」から4曲(序曲、行進曲、トレパーク、花のワルツ)。東京フィルのピックアップメンバーと小中学生と思しき子どもたちがそれぞれの楽器パートに混じって健闘。散見される管楽器の不安定さは、子どもたちの演奏ということで目をつぶるとして、4ヶ月の猛練習を重ねた末の本番は意外にも(失礼!)なかなか聴き応えあり。演奏前にマエストロ・チョンが「自分にとって家族と音楽こそが最も大切なものだ」というようなことを語っていたように、家族でこういうコンサートを楽しめる機会を持つことはとても重要だと感じた次第(聴くだけでなくオケに実際に参加、体感できるというところが素晴らしい)。

休憩を挟み、第2部は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」をもとに事前募集で子どもたちに描いたもらった絵について中川賢一氏が分析、ピアノ演奏を交えてお話。時間の関係だろうか、多少早口で駆け足的な印象が否めないが、オーケストラ演奏を聴く前にこういった音楽の解説を入れてもらえると子どもや入門者にとってはわかりやすい。ただし、その後の特別ゲストの宮城まり子氏(ねむの木学園理事長・園長・校長)とマエストロ・チョンとのミニ・トークは要らずもがな(笑)。宮城さんのトークは正直絡みにくそう(司会進行をした中川さんもミョンフン氏もほとんど唖然とした感じで、逆に面白かったかも)。いろいろと背後に事情はあるのだろうけど・・・。

そして、いよいよメイン・プロである「展覧会の絵」。舞台後方に大掛かりなスクリーンを据えて、子どもから集めた絵を宇井孝司氏が何とアニメーション化し、演奏に合わせてそれを投影するという懲りよう。とはいえ、オーケストラの後ろに動く映像があると邪魔になって音楽に集中できなさそうなので、僕は基本的に無視した。東フィルの演奏は抜群に上手い。「オーケストラの魔術師」の異名をとるラヴェルの名編曲が一層映え、チョン・ミョンフンのきっちりとした交通整理とあいまってほとんど踏み外しのない名演奏である。

ただし、気になったのは「展覧会の絵」という音楽が果たして子ども向け、ファミリー向けなのだろうかということ。というのも、「プロムナード」から「こびと」、「古城」と全曲それぞれに子どもたちがイメージした絵のほとんどがおどろおどろしい恐怖や不安を形にしたものが多かったから。もとになったハルトマンの絵の全てを僕は知らないが、音楽だけをよくよく聴いてみると確かに子どもの発想のように「暗く」「怖い」雰囲気の曲が多い。子どもの感性は敏感だし、情操教育、あるいは子どもに音楽の楽しさを知ってもらうことを前提とするなら、α派たっぷりというモーツァルトなどの音楽の方が良かったのでは、などと帰路考えさせられた(勝手な僕の見解だが)。もちろん「展覧会」は大好きな名曲だし、余程の凡演でない限り実演で聴くと必ず感動させられる音楽だから個人的には大満足なのだが・・・。

ちなみに本日のプログラムは下記の通り
第1部
チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」より
演奏/東京フィル・ファミリーオーケストラ
第2部
中川賢一のピアノによる「絵ナリーゼ」!?
ミニ・トーク「音楽と視覚表現」について
~チョン・ミョンフン&宮城まり子
ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」
指揮/監修:チョン・ミョンフン
ピアノとお話:中川賢一
特別ゲスト:宮城まり子(「ねむの木学園」理事長・園長・校長)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

終演後は拍手喝采、歓喜の嵐。見事でした。


12 COMMENTS

雅之

こんばんは~。
>子どもの感性は敏感だし、情操教育、あるいは子どもに音楽の楽しさを知ってもらうことを前提とするなら、α派たっぷりというモーツァルトなどの音楽の方が良かったのでは、などと帰路考えさせられた
私が反論しそうなのは、もう予測が付きますよね。
「肝試し」「幽霊話」「ゲゲゲの鬼太郎」「ウルトラQ」・・・ドキドキしたけど面白ろかったな。
「そうです。ここは、すべてのバランスが崩れた、恐るべき世界なのです。これからの30分、あなたの目は、あなたの身体を離れて、この不思議な時間の中に入っていくのです…」
http://www.youtube.com/watch?v=aNkdYfvvKxE
http://www.youtube.com/watch?v=iGwPhqnZWFA&feature=related
怖いこと、変なこと、汚いこと・・・、そういうことを知っているから、本物の美や、掛け替えのない大切なことも、わかるようになりました。

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岡本 浩和

>雅之様
待ってましたー!!
>怖いこと、変なこと、汚いこと・・・、そういうことを知っているから、本物の美や、掛け替えのない大切なことも、わかるようになりました。
まったくその通りでございます(笑)
なのですが、ちょっと今日のような状況では厳しいかなぁと直感的に感じまして・・・。
ただし、この件に関しての僕の本意はブログ上で説明しがたいものなので、今度お会いした時にゆっくりまた議論させてください。
それにしても「ラジオ体操第1」短調バージョン、「トルコ行進曲」調性入れ替えバージョン、いずれも気持ち悪いですねぇ・・・。

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じゃじゃ馬

東フィル、わりとよく聴きにいくのですが、某サラリーマン集団のプロオケと違って「音楽を奏でる」気が満々なので好きです。
先日の椿姫もチョンミョンフンとでしたが、楽しめました。
さて、記事を読んで、せなけいこさんの「ねないこだれだ」という絵本を思い出しました。
アマゾンから引用すると
———-
「ボン ボン ボン……」と時計が夜の9時を告げる。こんな時間に起きているのは、ふくろう、くろねこ、それともどろぼう…「いえ いえ よなかは おばけの じかん」。
「おばけの じかん」にまだ遊んでいる子どもは「おばけになって とんでいけ」。小さいおばけが大きいおばけに手をひっぱられて、夜空へぐんぐん登っていくシルエットが描かれたページでお話は終わる。その後どうなったのかは語られないままだ。
———-
この絵本自体は定評のあるものでも、たいてい読むのは夜寝る前。
夜の寝る前のひとときにこのようなものを読んで、恐怖心をあおって寝かせるってどうなんだろうと前から思っていました。
よいものや教えたほうがいいものでも、シチュエーションによってはしないほうがいいこともあるんじゃないかと。
夜寝る前はできれば、美しいやさしい穏やかな気分になれるものを読んであげたいなあと思って絵本を選んでいます。
でも、眠い子どもが絵本をどこかに投げちゃうこともしばしば…(笑)
なんだかそんなことを考えた記事でした。

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雅之

おこんばんは~~。
ラヴェル編曲「展覧会の絵」は、自分でもアマ・オケで演奏に参加したこともあるのですが、曲の蘊蓄話より恐ろしい話の方が、ずっと好き!!
じゃじゃ馬さんのおっしゃるとおり、子供には、
>夜寝る前はできれば、美しいやさしい穏やかな気分になれるものを読んであげたいなあ
に賛成です。
しかし考えてみれば、昔の童謡は物悲しい曲が多いし、民話、昔話、童話には、怖い話や残酷な話や、可哀そうな話が多いですね。「赤ずきん」などの「グリム童話」も、「ピーターと狼」も・・・。ちなみにイソップの「アリとキリギリス」も、歌やヴァイオリンの名演奏家・キリギリスをサラリーマン・アリが酷い目にあわせる話なので非常にケシカラン可哀そうで残酷な話です(大泣き)。
ところで私は小学生低学年のころから、「四谷怪談」や「牡丹灯籠」などの哀しいヒロインに憧れていて、大人になったら男たるもの、あんなふうに一途に愛されたいものだと心から願っていました。さて現実は・・・?(小泣き)
最近の凶悪事件を聞くにつけ、幽霊や妖怪より現実の人間の方が僕は恐ろしいです。
マイケル・ジャクソンは子供時代、夜寝る前、お父さんが、お化けの真似で兄弟みんなを怖がらせたこともトラウマのひとつになったようですね。本当に怖いのはお化けではなく、金や色の亡者、父親だったというオチ・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=cIqj0xD7VCY
※ラヴェル版「展覧会の絵」の楽譜等の問題について、私が勉強になっているサイトをご紹介します。
http://www.hi-ho.ne.jp/tadasu/pictures.htm

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岡本 浩和

>じゃじゃ馬さん
こんばんは。
>某サラリーマン集団のプロオケと違って「音楽を奏でる」気が満々なので好きです。
ですよねー。なかなか生かす演奏でした。
>よいものや教えたほうがいいものでも、シチュエーションによってはしないほうがいいこともあるんじゃないかと。
おっしゃるとおり!
表も裏も知る必要はありますが、特に子どもに対してはTPOに応じて対処する知恵が必要ですよね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
グリム童話もほんとは残酷な物語なんですよね。
>小学生低学年のころから、「四谷怪談」や「牡丹灯籠」などの哀しいヒロインに憧れていて、大人になったら男たるもの、あんなふうに一途に愛されたいものだ
さすが雅之さん!ませてますねぇ(笑)。
>最近の凶悪事件を聞くにつけ、幽霊や妖怪より現実の人間の方が僕は恐ろしいです。
同感です。グリムのような「残酷童話」は子どもの頃から触れることで免疫をつけ、人間として「正しい姿」に導く効用があったのかもしれませんね。
>ラヴェル版「展覧会の絵」についてのページ情報ありがとうございます。勉強になります。

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じゃじゃ馬

雅之さまのおっしゃることはよーく分かります。
一途に愛されたいは少し分かります(笑)
そういえば、絵本も日本のものは比較的楽しくかわいく♪というのが多いのに対して(なので吟味しないと、中身のない、子どもにただ迎合したものも多かったり)、外国のものは人生の教訓があったり、光と影があったり、残酷さを教えたり、人生の機微を感じさせたりというのが多いです。
わたしは世の中で一番こわいものは、もしかしたら「ひとの心」じゃないかなあと思うことがよくありました。
同時にもっとも美しいもののひとつもひとの心かなあ…なんて、思ったりしてましたね~。ひさしぶりにそのことを思い出しました。

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岡本 浩和

>じゃじゃ馬さん
>わたしは世の中で一番こわいものは、もしかしたら「ひとの心」じゃないかなあと思うことがよくありました。
同時にもっとも美しいもののひとつもひとの心かなあ…なんて、思ったりしてましたね~。
人間の心は両刃の剣ですね。でもそれが「人間」なんです。

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じゃじゃ馬

>人間の心は両刃の剣ですね。でもそれが「人間」なんです。
ですね~。
心(マインド)という観点からみると。
それを超えた、というかマインドよりももっと奥深くにある人間の本質(という言い方でいいのか…)を見ることができるとまた違うんだろうなあ~と思う今日この頃です。
この話をすると話がずれるので、この辺で♪

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雅之

>心(マインド)という観点からみると。
>それを超えた、というかマインドよりももっと奥深くにある人間の本質(という言い方でいいのか…)を見ることができるとまた違うんだろうなあ~と思う今日この頃です。
じゃじゃ馬さんのおっしゃりたいこともよく理解できます。
読んでいて思ったのは、「善」「悪」、「美」「醜」、「幸福」「不幸」、こういう二項対立は、すべて「絶対的」ではなく「相対的」な考え方に過ぎず、時代、国、民族、宗教、風習などによって、どうにでも価値基準が変化するということ。
今、私たちの時代の感覚で「源氏物語絵巻」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Genji_emaki_YADORIGI_2.JPG
を眺めても、登場人物が物語本文に書かれているような美男、美女には決して見えないですよね。
また私の独身時代、1991年に放送されたドラマ「101回目のプロポーズ」は、現在や50年後に同じ設定や演出が広く受け入れられるかどうかは微妙です。よく言われるように、今観ると男性の主人公にはストーカーっぽいところもありますしね・・・、拒絶反応を示す女性が多いのではないでしょうか? 放送当時は、そんなこと思ってもみなかったです・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=GB3n9yiK1FA
人間のことを「美しい」と感じるのも「怖い」と思うのも、岡本さんのおっしゃるように、その時々の、自分の鏡の投影に過ぎないのかも知れませんね。人間とは、とんでもなく複雑で奥深い生き物ですね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>二項対立は、すべて「絶対的」ではなく「相対的」な考え方に過ぎず
「外」をみて比較の中で判断すると、そうならざるえないですからね。それが「我」を生み、「対立」を生むんですよね。まぁ、それが人間だといえば人間なのですが。「外」の状況、状態が変われば「答」も変わってきます。
だから自分の「内側」に「答」をみつけようとする方が正しいのかな思うのです。

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