ブログのすすめ

brahms_intermezzi_gould.jpg毎日ブログを書くことには実は大きなメリットがある。ひとつは通常なら知り合うことがないであろう人たちとの出逢い。行ったこともない見知らぬ土地に住む人たちと瞬時にしてつながるという奇跡。それによって思ってもいなかった新しい情報が得られ、知識の幅が格段に広がる。また、自分の思いや考えとは違った別の観点から意見をいただけるという楽しみ。それによって自分の長所や短所を再確認し、整理できるのである。またひとつは日々自分自身を客観的に振り返る時間を否が応でも持たされるということ。特に、継続することを課すと、時に「何を書こうか」悩んでしまうこともある。そんな時、その日一日起こったこと、考えたこと、感じたことを念入りに思い出そうとすれば、話題は何かしら見つかるもの。自身を振り返ることが自己成長の起爆剤になることはほぼ間違いないと思う。

歳を重ねるごとに人間は過去を振り返り、懐かしむことが多くなる。ある人は「過去など振り返ったところで何の得にもならない」という。またある人は「過去でなく未来について本気で考えよう」と示唆する。しかし、過去を振り返ることは僕は大事なことだと考える。下手に過去を棚に上げてしまうより、それがマイナスの体験であれどっぷりと浸って「受け容れてしまう」ことがとても重要だと思うのである。

グールドの弾くブラームスの晩年の諸作を聴いていると「振り返ること」の大切さがより身に染みる。

ブラームス:間奏曲集
グレン・グールド(ピアノ)

50歳にしてあの世に旅立ったグレン・グールドは誰よりも早く歳をとり、どんな人よりも深く人生を謳歌したのではないか。そんなことを感じさせてくれる傑作アルバムがブラームスの間奏曲集だ。わずか30歳のグールドに60歳のブラームスの心境が本当にわかったのか?人間嫌いのグールドにブラームスの心の襞の隅々まで理解できたのか?ブラームスの何がこれほどまでに彼を虜にするのか?

一昨日、グールドについての記事を書いた際、この天才にも熱烈な恋愛体験があり、そのいずれもが彼の奇癖のために破局を迎えていることを知り、グールドとブラームスの間に近似性を感じ、この音盤がどうしてこれほどまでに人の心を捉えるのかその理由が少しわかった。「想い」があまりにも激しいゆえ、自身を制御できず、ある時には一方通行のデリカシーのない行動をとってしまったのかもしれないグールドの「幼稚性」。ブラームスにも通ずるそんな「邪心のなさ」がグールドの音楽のピュアである所以なんだということもまたよく理解できる。

この秋のコラボレート・コンサートにて、愛知とし子が作品117-1と作品118-2を披露することになっている。後者は既にセカンド・アルバムに収められているものの、彼女の真骨頂は実演にあり、いかにブラームスの「心の襞に潜む悲しみも喜びも」捉えているかが聴きモノだと僕は勝手に楽しみにしている。それにしても、このグールドの、作品117-1に始まり作品118-2で閉めるという選曲と並びの絶妙さはいかばかりだろう。身を浸しているとどこまでも沈潜してゆく、まるで失恋のときのような哀しみと慟哭。

ちなみに、このアルバムについては以前もブログ上で書いた。聴くたびに新しい発見がある。

※追記(訂正)
愛知とし子が作品117-1と作品118-2を演奏するのは、来週、瑞浪芸術館で開催される「若手女流3人展記念コンサート」においてでした。残念ながら僕はセミナーのため、聴くことができません。無念(涙)。


6 COMMENTS

雅之

こんばんは。
>下手に過去を棚に上げてしまうより、それがマイナスの体験であれどっぷりと浸って「受け容れてしまう」ことがとても重要だと思うのである。
昨夜行った東京のスナックのカラオケで誰かが歌っていた、宇多田 ヒカルのお母さんの、往年の大ヒット曲を思い出しました。
赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく
十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく
昨日マー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく
夜咲くネオンは 嘘の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく
前を見るよな 柄じゃない
うしろ向くよな 柄じゃない
よそ見してたら 泣きを見た
夢は夜ひらく
一から十まで 馬鹿でした
馬鹿にゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく
夢は夜ひらく
「圭子の夢は夜ひらく」(石坂まさを 作詞・曽根幸明 作曲)
暗いなあ! こういう暗い過去の振り返り、大好き!
>この秋のコラボレート・コンサートにて、愛知とし子が作品117-1と作品118-2を披露することになっている。
でも、やっぱり今の私は、済んだ過去の名演奏より、まだ見ぬ未来の演奏にワクワクします!! 気持ちだけ、若いでしょ?(笑)

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
わー、暗いなぁ(笑)。この「圭子の夢は夜ひらく」は確か一世を風靡した歌ですよね。多分僕は子どもだったので記憶にはないですが・・・、当時のこういう歌は僕も実は好きなのです。
>まだ見ぬ未来の演奏にワクワクします!!
同感です!

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たんの

「圭子の夢は夜ひらく」暗い歌ですよね~
若い人は、この歌知らないでしょうね~~
愛知とし子さんの演奏(!)ワクワクします。
ところで、1年以上前から、12人程でNPO本の分担執筆のための研究会を大学で行っていましたが、やっと来月刊行することになりました。。
やっとというのは、当初から決まっていた出版社に集めた原稿を入稿した
ものの、売れる見込み薄とのことで後回しにされていたんです。このご時世出版社ご担当の立場も分かります・・・
私はこの中で、自己・他者・自然受容など、マズローの自己実現についても触れています。編著者筆頭の明治大学教授が、売り先を提示したことで出版が実現した次第です。私も編著者として出版にワクワクしています。

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岡本 浩和

>たんのさん
こんばんは、ご無沙汰してます。
暗い歌ですよね、ほんとに(でも良い曲です)。
11月には愛知とし子リサイタルがあるのでぜひまたいらしてください。近いうちにご案内いたします。
>やっと来月刊行することになりました。
それはおめでとうございます。ワクワクですね。
>私はこの中で、自己・他者・自然受容など、マズローの自己実現についても触れています。
なるほど、発売されたら読んでみますので、教えてください。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
おまけコメントありがとうございます。大好評です。
しかし、僕の場合藤圭子というと、どうしても前川清との結婚のことを思い出してしまいます。まだ子どもでしたが結婚のときのことも離婚のときのことも不思議によく覚えています。
確かにハネケンもかっこいいですねー。

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