デュトワ指揮モントリオール響のフォーレ「レクイエム」(1987.10録音)ほかを聴いて思ふ

レクイエム、死者を弔い、魂を鎮める音楽は、不思議なことに聴く者の過去を刺激し、憧憬を喚起する。もしも、輪廻転生というものが本当にあるとするのなら、誰もがかつて一度は死の体験があるということで、その意味ではかの音楽には忘却の彼方の過去世を懐かしく思い出させる何か要素が確かにあるのだろう。

中でも、「怒りの日」を欠いたガブリエル・フォーレのそれは実に静謐な癒しの調べであり、その天国的な美しさは古今東西唯一無二で、幾度聴いても飽きることのない、人間技とは思えない普遍性を持つ。

フォーレは言う。

私の「レクイエム」・・・は死に対する恐怖感を表現したものではないと言われており、中にはこの曲を死の子守歌と呼んだ人もいた。しかし、私には死はそのように感じられるのであり、それは苦しみと言うよりもむしろ永遠の至福と喜びに満ちた解放感にほかならない。グノーの音楽が人間的優しさに傾き過ぎていると非難されても、彼の本性がそのような感性を導いたのであり、そこには固有の宗教的感動が形作られている。芸術家には自己の本性を容認することが許されていないのだろうか。私の「レクイエム」について言うならば、恐らく本能的に慣習から逃れようと試みたのであり、長い間画一的な葬儀のオルガン伴奏をつとめた結果がここに現れている。私はうんざりして何かほかのことをしてみたかったのだ。
ジャン=ミシェル・ネクトゥー著/大谷千正編訳「ガブリエル・フォーレ」(新評論)P83

「永遠の至福と喜びに満ちた解放感」が投影されるゆえの崇高体験。
この作品にはコルボ&ベルン響による永遠の名演があり、あるいはよく知られるクリュイタンス&パリ音楽院管による名盤もある。何度か聴いた実演でも、例えばパイヤールが確か都響だったか読響だったかを指揮した舞台は忘れられないほど感動的だった。
久しぶりに聴いたデュトワ指揮モントリオール響による「レクイエム」(何とちょうど30年前の録音!)の澄明さ。何より低音部を支えるオルガンの永遠美。

フォーレ:
・レクイエム作品48
・組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
・パヴァーヌ作品50
キリ・テ・カナワ(ソプラノ)
シェリル・ミルンズ(バリトン)
モントリオール交響合唱団
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1987.10録音)

涙なくして聴けぬ第7曲「イン・パラディスム(楽園にて)」。

天使たち、汝をば天国に導き、
殉教者たち、汝をば迎え入れ、
聖なる都イエルサレムへといざなわん。
彼処には、天使たちの合唱、汝を迎うべし、
嘗っては貧しき乞食なりしラザロと共に。
汝に永遠の安息あれ。
(高崎保男:歌詞大意)

あわせてJapanの3作目”Quiet Life”。
リチャード・バルビエリのキーボードが、通奏低音のように耳にこびりつくタイトル曲。デヴィッド・シルヴィアンの退廃的なヴォーカルが魂に絡みつく。40年近くの時を経ても色褪せない魔性の声。ここにはかのレクイエムに通じる「鎮魂」があるように僕には感じられる。

Now as you turn to leave, never looking back
Will you think of me?
If you ever, could it ever stop?
Oh, the quiet life

・Japan:Quiet Life (1979)

Personnel
David Sylvian (vocals, occasional guitar)
Mick Karn (bass, saxophones)
Steve Jansen (drums, percussion)
Richard Barbieri (synthesisers, keyboards)
Rob Dean (guitars)

極めつけは、ヴェルヴェッツの”All Tomorrow’s Parties”のカヴァー。
ルー・リードが書き、ニコが歌ったこの名作がシルヴィアンの確信的な歌によって見事に生まれ変わる。過去と現在と未来を往来する魔法。

ここでもう一度フォーレに戻ろう。
組曲「ペレアスとメリザンド」に感じられるのも、時空を超える音楽の魔法。「前奏曲」の静けさとクライマックスの絶叫に感涙、また「シシリエンヌ」でのフルートの柔らかな音色に癒される。何と懐かしい調べ。
シャルル・デュトワはフランスものを振らせれば右に出る者がいないほど知的で洒脱な演奏を聴かせてくれる。すべてが美しい。

 

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