ヴァイグレ指揮ドレスデン・フィルのレーガー ベックリン4つの音詩(1988.10録音)ほかを聴いて思ふ

人は様々なものからインスピレーションを得る。
それを見過ごすことは簡単だが、内なる声には忠実になった方が良い。

風景のリアルな描写と神秘的雰囲気が絶妙に融合したこの作品は、無意識や夢、記憶といった領域と深く結びつき、強烈なイメージを喚起して、一度見たら忘れがたい不思議な魅力を放つ。世界との間に距離を感じる人間にしか、表現しえないであろう・・・。
これを描いたとき、アルノルト・ベックリン(1827-1901)は53歳の、アル中気味の貧しい画家だった。
中野京子著「怖い絵—泣く女篇」(角川文庫)P219-220

アルコール中毒とは、芸術家の最右翼ともいえる画家ではあるまいか。
細部を都度変更し、幾度も描き上げた「死の島」は、いずれもが意味深な光彩に溢れる傑作であると思う。あの絵を描いたのが、今の僕と同じ年齢であったとは驚き。

ベックリンの「死の島」に触発され、セルゲイ・ラフマニノフはひとつの音楽作品を創造した(1909年)。そして、同じ頃(1912-13年)、マックス・レーガーもこの絵に直感を得て、美しくも神秘的、幻想的な作品を生み出した。
独奏ヴァイオリンを伴う第1曲「ヴァイオリンを弾く隠者」の、あまりに懐かしい音響と、甘美で静謐な旋律に思わず感涙。ここには、ベックリンの絵に希望をみるマックス・レーガーの意志の投影があるように僕は思う。
また、第2曲「波間の戯れ」の喜び。ここではレーガーは思いの丈弾ける。少年のような心が見事に横溢するのである。そして、第3曲「死の島」の、暗澹たるドラマに垣間見る祈りは、メロディ・メイカーであるレーガーの真骨頂。クライマックスに向けての壮絶な響きはヴァイグレ指揮ドレスデン・フィルの大いなる力量を示す。何という色香(「トリスタン」の木魂が聴こえるよう)!あるいは、第4曲「バッカナール」では、(ベックリンの作品に同名のものはないが)前3曲の主題が顔を出し、壮絶な舞踏が繰り広げられるも、突然に終始する最後の瞬間が何とも潔い。それぞれが19世紀浪漫の衣装を纏った名曲であると思う。

レーガー:
・モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ作品132(1989.1録音)
・アーノルト・ベックリンによる4つの音詩作品128(1988.10録音)
ラルフ=カルステン・ブレムゼル(ヴァイオリン)
イェルク=ペーター・ヴァイグレ指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

ところで、作品132は、ソナタイ長調K.331第1楽章の主題によるもので、8つの変奏曲とフーガで成り立っているが、ここではモーツァルトの可憐さを損なわず、しかし、レーガーらしい大らかさと緻密さが刻印された美しい音楽となっている。特に終曲フーガの、複雑さの中にある哲学的音響の絶妙さ。金管による高らかな主題の咆哮が素晴らしい。この音楽を、もしもモーツァルトが生きていて聴いたらどんな風に思っただろう?

ゾフィー(コンスタンツェの妹)に「ぼくから千度もキッスを。某(ズュースマイアーか)とは、お前が好きなことをするがいい。さようなら。
(1791年10月14日・15日付、妻コンスタンツェ宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P214

現存するモーツァルト最後の手紙の終わりは、奇しくも妻宛の「さようなら」。
何だか切ない。

 

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