ワルター指揮ウィーン・フィルのマーラー交響曲第4番ほか(1960.5.29Live)を聴いて思ふ

一期一会。
時間の中に生きる僕たちにとって、「不安」の源は、その時間がいつ終わるのかがわからないということ。もし仮に、自分の(あるいは身近な人々の)最期がいつなのかわかったら、人間はもっと自由に生きれるだろうし、また、他人のためにより濃い生き方を選択するのではなかろうか。

一世一代のドキュメントを心して聴く。
マーラー生誕100年記念祭。ブルーノ・ワルターの、ウィーンでの最後の演奏会の記録。
実際のところは、後になってでないと、それが最後なのかどうなのかはわからない。しかし、どうやらこれが最後になるのではないかという直感が働くもの。このときのオーケストラの団員にも聴衆にも、おそらく最後になるだろうという予感は確かにあったという。

ひとつ間違うと「集中力を欠く」ともとらえかねられない遅いテンポで蠢く緩徐楽章(何と15分20秒!)。「未完成」交響曲の第2楽章アンダンテ・コン・モートの深い思念と、そこから醸し出される哀感溢れる浪漫。弦楽器の静かなうねりに心奪われる。

ワルターの1960年のお別れコンサートは、ウィーンでも続いた。彼は5月29日にウィーン・フィルを一回指揮して、シューベルトの「未完成」、マーラーの交響曲第4番とオーケストラ歌3曲を演奏した。黄金色に輝くムジークフェラインザールでの最後の舞台は、栄光の記憶を呼び起こしたであろう。この時の独唱者はエリーザベト・シュヴァルツコップだった。彼女は、1952年にワルターがコンセルトヘボウ管弦楽団を最後に指揮したコンサートでも歌っていた。これがワルターのウィーン最後のコンサートになるかどうかは誰にも定かではなかったが、(1961年にバッハのマタイ受難曲をやるという不確かな案もあった)、彼がウィーン・フィルの指揮台に立つというのは一大イヴェントであり、組織側はこのコンサートのオーストリアでのテレビ放送を希望した。後世の人にとっては残念なことに、ワルターは美学的理由でこの案に強く反対した。「コンサートは聴くものであって、見るものではありません」と彼はウィーン・フィルのエゴン・ヒルベルトに書いている。
エリック・ライディング/レベッカ・ペチェフスキー/高橋宣也訳「ブルーノ・ワルター―音楽に楽園を見た人」(音楽之友社)P562-563

もしも映像が残されていたとしたら、と思うと確かに残念ではある。あるいは、「マタイ受難曲」が採り上げられ、それが万が一録音されていたとするなら、どんな演奏になっていたのだろうと、今となっては期待と不安の入り混じる複雑な思いに駆られるのは、僕たちが、その後ワルターの残された時間がほとんどなかったことを知るからだ。

・シューベルト:交響曲第7(8)番ロ短調D759「未完成」
・マーラー:子どもの魔法の角笛~第9番「美しいトランペットの鳴り響くところ」
・マーラー:リュッケルト歌曲集~第4番「ぼくはほのかな香りを吸い込んだ(菩提樹の香る部屋にて)」
・マーラー:交響曲第4番ト長調
エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1960.5.29Live)

師グスタフ・マーラーへのこの上ない祈りと想いの投影される、かつてないほど粘る(?)演奏は、それこそ一期一会。

さらには、彼はヒルベルトへの別の手紙で、これは「ワルターの祝典」ではなく「マーラーの祝典」としたいと述べている。
~同上書P563

老練のマーラー4番。たぶん、ベスト演奏ではないのだろう。
しかし、心臓発作からの復帰後、80歳の老体にムチ打ち、ウィーンに登場した彼の演奏は、やっぱり楽観的であり、天国的響きを醸す。第1楽章コーダのアッチェレランドにみる愉悦。また、第2楽章での、ウィリー・ボスコフスキーの滋味深いヴァイオリン独奏に僕は感銘を受ける(ワルターへの感謝の念が詰まっているよう)。
白眉は夢見る第3楽章アダージョ(24分弱!)。もちろん本人に意識はないだろう、それでもこれが最後のウィーン訪問であることはわかっていたはず、まるで聴衆にお別れを告げるかのように静かに涙にむせぶ音楽がある(クライマックスでの覚束ない、不安定な音楽も、何だか愛嬌に思えるのが不思議)。
ちなみに、シュヴァルツコップの独唱を伴う終楽章は、彼女の想いがこもり過ぎるのか(録音の質の関係もあるのだろうか)、感興を削ぐ、少々雑な印象を与えるのが残念。マーラーの、短い2つの歌曲では想いが深層にまで響き、逆に癒される。

 

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