幻想(あるいは幻聴?)交響曲

berlioz_chung_symphonie_fantastique.jpg自分を振り返り自省したり、未来のことを夢想したり、あるいは人と酒を酌み交わしながら何らかのテーマで議論したり、人は日々「何かをして」生きている。仕事や雑務に追われる毎日を過ごしていると、時には全く何も考えずに、真っ白になってみたいなとふと思う。確か子どもの頃はそうだった。過去のことについてくよくよしたり、未来のことについて心配したり悩んだりせず、ただその日を一生懸命に楽しく生きていた。

1830年頃、つまりフランス7月革命を契機としたヨーロッパ諸国の混乱期は音楽でいうと「ロマン派」のいわば最初期。楽聖ベートーヴェンが亡くなってまだ3年という年で、パリではリストやショパンがいよいよ活動を始め、パガニーニが「ヴァイオリンの鬼神」として世の中を席巻していた、まさにクラシック音楽愛好家垂涎モノの天才芸術家たちが群雄割拠していた時代である(20世紀前半の大指揮者たちの時代も羨ましいが、この時代に生まれ育ち、ショパンやパガニーニの実演を聴けたとしたならきっと鳥肌モノなんだろうな)。そういう時代にあって、まず忘れてはならない大事件が、ベルリオーズの「幻想交響曲」初演。

片想いの女性にストーカー紛いの行動を起こし、元許婚を旦那ともども殺害しようと計画をしたり、今でいうなら凶悪犯罪者になりかねない天才誇大妄想癖音楽家エクトール・ベルリオーズ。「幻想交響曲」は舞台女優ハリエット・スミッソンへのマスターベーション的想いが作曲の契機の一つになっているのだが、譜面に添えられた文章といい、各楽章につけられた標題といい、大の大人が子どもの頃にもった夢(否、大人になってからの悪夢だったか!)を大音響に乗せて一大交響絵巻に仕立てあげたようなもの。ただし、作曲の経緯がいかなるものであろうと、21世紀の今も名曲として聴き継がれるわけだからその才能は立派なものである。「幻想」ならぬ「幻聴」あるいは「幻覚」か・・・。

ベルリオーズ:幻想交響曲作品14
チョン・ミュンフン指揮パリ・バスティーユ管弦楽団

聴くたびに感動させられる。信じられないくらい(笑)大仰な音楽だが、それにしてはコンパクトにわかりやすく首尾一貫してまとめられており、クラシック音楽入門者にオススメしたい名曲。こういう大交響曲は音の良いホールの、しかも良い席で適度に緊張感をもちながら、真剣に聴くのがベストなのだが(かつて小林研一郎の指揮で一度聴いただけである)、長い間僕の中では、(レコードでは)「幻想交響曲」はミュンシュ&パリ管盤に限るという信念というか拘りがあった。
その勝手な考えを覆してくれた演奏がこのチョン・ミョンフンの音盤(1993年の録音だから指揮者がちょうど40歳の時の録音ということになる)。繊細で色気があり、しかも男性的な雄弁さを持つとてもバランスのとれた名演で、発売当初は評論家諸氏にも好評だったと記憶する。

ということで、週末の第19回「早わかりクラシック音楽講座」では、ベルリオーズの「幻想交響曲」も採り上げることにした。

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