本当の自由はこの世にはない。
魂を解き放てとモーツァルトは歌う。
エリー・アメリングの何とも清澄な、汚れのない、可憐な声は、モーツァルト歌曲に似合う。
例えば、「自由の歌」K.506。
この作品は、おそらくフリーメイスンのために書かれたのだろうといわれる。しかしながら、真相はわからない。それでも、同じくフリーメイスンの盟友ヨハンネス・アロイス・ブルーマウアーの過激な(?)詩に美しい曲と付けたということから、その説は間違っていないように思う。
まばゆい貨幣を求めて
悪しき富の神に仕える男、
金袋の数を増やすことしか
考えない男、
糞くらえ、情けない奴だ
光り輝く自由の味を知らんのだ。
「自由の歌」(ヨハンネス・アロイス・ブルーマウアー/石井宏訳)
何より、宗教とは別の意味でのモーツァルトの信仰心の確かさを思う。
少なくとも彼の死生観から考えるに、死は終わりではないことを彼は知っていたし、また、あの世があるということも確実にわかっていた。
どの作品を聴いても、とても人間の創造物とは思えない革新的でありながら普遍的な美しさ。これはある程度の年齢と経験を重ねないとわかるまい。
モーツァルト:歌曲全集
歌曲(1977.8録音)
・自由の歌K.506
・老婆K.517
・ひめごとK.518
・別れの歌K.519
・ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時K.520
・夕べの想いK.523
・クローエにK.524
・小さなフリードリヒの誕生日K.529
・夢の像K.530
・小さな紡ぎ娘K.531
・私の胸は喜びにおどるのK.579(アリア)
・春への憧れK.596
・春の初めにK.597
・子供の遊びK.598
エリー・アメリング(ソプラノ)
ダルトン・ボールドウィン(ピアノ)
三重唱(ノットゥルノ)(1973.12録音)
・いとしい光、うるわしい光よK.346(439a)
・いまこそあのむごい時が来たK.436
・黙しながら嘆こうK.437
・いとしい人よ、お前が遠くにいるとK.438
・愛らしい二つの瞳がK.439(ヴォーカル・パート:G・フォン・ジャカン作?)
カンツォネッタ(1973.12録音)
・数多くの恋人たちの間にもK.549
エリー・アメリング(ソプラノ)
エリーザベト・コーイマンス(ソプラノ)
ペーター・ヴァン・デア・ビルト(バリトン)
オランダ管楽合奏団員
死の年、1791年1月14日に完成した「春への憧れ」K.596の喜びに満ちる表情が素敵。
また、同日に生み出された「春の初めに」K.597と「子供の遊び」K.598の、あまりに透明な詩情に溢れる歌。
5月よ、早くおいで
木はまた緑、
小川に行けば
すみれが咲くよ!
ああ、早くすみれを
見たいなぁ!
ああ、5月はいいな
外を散歩できるもの!
「春への憧れ」(クリスティアン・アドルフ・オーヴァーベック/石井宏訳)
本人は、よもやこの年の内に命を失うとは思ってもみなかっただろう。
どの作品も清澄でありながら、真面目過ぎず、遊びの心を忘れていない。モーツァルトの生命はこの時ですら燃えに燃えていた。
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