ヒリヤード・アンサンブルの「オールドホール写本」(1990.9録音)ほかを聴いて思ふ

中学の時にパイプオルガンをね、初めて聴いて教会中がガーって鳴るから、感応しちゃって涙がバーって出たの。その時にね、なんかパイプオルガンの音がプリントされちゃったの。
E-TALENTBANKより

先日、偶々つけたテレビにユーミンの姿が映り、そのまましばらく観ていたら、彼女が自身の声の秘密をそう明かしていたことに妙に納得した。

僕は、荒井由実はもちろん松任谷由実についてはよく知らない。
きちんと聴いて来なかったことがその理由。
それでも巷では彼女の楽曲がどこでも流れているので、有名な作品については理解しているつもり。そういえば昔から平常の声と歌声のあまりの響きの違いにとても不思議な感覚があった。彼女自身が「ギフトだからしょうがない」と語るのに、「吾唯足知」を思った。

最新のベスト・アルバムが美しい。

・松任谷由実45周年記念ベストアルバム「ユーミンからの、恋のうた。」(2018)
All Songs Written by Yuming
Album Concept Produced by Yumi Matsutoya
All Songs Arranged by Masataka Matsutoya

20年前の、「きみなき世界」がかっこいい。

きみなしで きみなしで 〇〇〇〇〇〇んて
〇〇〇〇〇 どうしても 〇〇〇〇〇〇ない

ありふれた歌詞だけれど、なぜだか心に響く。
たぶん、それは声のせい。

そして、83年の” REINCARNATION”から”NIGHT WALKER”という失恋の歌は、とても悲しいのだけれど、どこか肯定感溢れる。目が覚めた。
あるいは、「校歌を作ってほしい」という、ラジオの投稿から生まれた74年の”MISSLIM”から「瞳を閉じて」の懐かしさ。

〇〇〇〇〇〇 沖まで船を出そう
手紙を入れた 〇〇〇〇〇〇もって

〇〇〇〇〇〇行った友達に
潮騒の音が〇〇〇〇〇〇ように
今 〇〇〇〇〇

叙情的であり、また叙景的な歌詞が荒井由実の神髄。
さらに、1979年の「悲しいほどお天気」から「ジャコビニ彗星の日」の、とても個人的な心情と外の風景の同期する様が実に黄昏れて素敵。

72年10月9日
あなたの〇〇〇〇〇〇こと慣れてく
〇〇〇〇〇〇んやり待った
遠く〇〇〇〇〇〇群

嗚呼、1973年の「ひこうき雲」から「雨の街を」の新鮮さ。
聖なる音調と俗なる音調の入り交じる、時間と空間を超えるユーミンの歌は、おそらくこの先何百年と語り継がれることだろう。いや、それは、過去数百年と流れ渡ってきたものかもしれない。

ヒリヤード・アンサンブルの「オールドホール写本」からの歌を思った。
15世紀の大英帝国の聖なる音楽が神々しく、しかしとても人間的に響く。それこそオルガンを思わせる透明で清澄な歌。

オールドホール写本
・クェルドリク:グローリア
・作者不詳:敬虔深き恵みの御母よ
・作者不詳:処女なる御母は男を知らず
・トマス・デイメット:幸いなる神の母
・ピカード:グローリア
・レオネル・パワー:クレド
・ビタリング:エン・カテリーネ・ソレニア
・ペナード:クレド
・ペナード:至福なるかな、天上の女王
・レオネル・パワー:至福なるかな、天上の女王
・作者不詳:サンクトゥス
・作者不詳:幸いなるかな、天の女王
・レオネル・パワー:サンクトゥス
・作者不詳:アニュス・デイ
・ジョン・フォレスト:クアリス・エスト・ディレクトゥス
・オリヴァー:アニュス・デイ
・オリヴァー:救い主のうるわしき母
・ジョン・フォレスト:天に昇りたまえりキリスト
・作者不詳:アニュス・デイ
・マテウス・デ・サンクト・ヨハンネ:アーレ・ポスト・リバミーナ
・ジョン・クック:ステッラ・チェリ
・トマス・デイメット:サルヴェ・ヴィルゴ・サクラ・パレンス
・作者不詳:ポスト・ミッサルム・ソレニア
ヒリヤード・アンサンブル
デイヴィッド・ジェイムズ(カウンターテナー)
アシュリー・スタフォード(カウンターテナー)
ロジャー・カヴィ=クランプ(テノール)
ジョン・ポッター(テノール)
マーク・パドモア(テノール)
ポール・ヒリアー(バリトン)
ゴードン・ジョーンズ(バリトン)(1990.9録音)

あらゆる感情を排した聖なる音楽。
人類の長い歴史の中、脈々と歌い継がれる「歌」の原点を見るようだ。
例えば、単旋律によるオリヴァーの「救い主のうるわしき母」の気高さと悲哀。
続く、フォレストのアンサンブルによる「天に昇りたまえりキリスト」の崇高さ。
ヒリヤード・アンサンブルはあくまで男声カルテットゆえ、その音色はどこかくすんだモノトーンを示し、それがまた逆に色気を秘め、麗しい。彼らが活動を停止したことが実に残念だ。

なるほど、ユーミンの歌もどこか男性的、いや、ニュートラルなニュアンスを持つから不思議なんだ。やっぱり声というよりオルガンの音だ。

※「オールドホール写本」については以下のサイトが詳しく、とても勉強になる。
「Old Hall Manuscript(オールドホール写本)総論」

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