新国立劇場開場20周年記念特別公演 ベートーヴェン「フィデリオ」(新制作)

衝撃の結末。
意外にわかりやすい、スマートな演出だなと思って観ていたが、第2幕後半、レオノーレ序曲第3番のところで舞台上では無言劇が繰り広げられ、その時点で僕の脳みそが火を噴いた。そして、最終場に至って唖然。さすがはカタリーナ・ワーグナー。よく考えてみると、それまでの経過にいくつもの伏線があったことに気づく。
それにしてもワーグナー家の人々はよほど人を殺すのが好きなようだ。リヒャルトの思想の根幹にある、女性の純愛による救済や、死による一体と解放が、ここでも大きな役割を果たす。人間は法を得ずして真には悟れぬのだと知っているかのように、すべては輪廻の内にあり、そう簡単には抜けられないのだと言わんばかりに、何とも鍵を握るのがドン・ピツァロ!!驚いた。混乱した。

3層に分かれた舞台(両幕とも後半、舞台装置がせりあがり3層に転換される)は、ダンテの神曲の如く、まるで天国、煉獄、そして地獄を示すかのよう。果たしてベートーヴェンが目指した人類同胞の調和は叶うのか?真の自由は獲得できるのか?自由の天国を司るのが、結局はドン・ピツァロであったことがとにかく衝撃。カタリーナの読みが浅いのか、逆に深いのか、それとも、それが現実なのか?奥深い問いかけに、僕は唸った。

ただし、音楽も舞台も最高の出来。ドライヴの効いた、圧倒的名演奏と、特にレオノーレ(リカルダ・メルベート)とフロレスタン(ステファン・グールド)の恐るべき名唱に心底感動した。「フィデリオ」は間違いなく傑作である。

新国立劇場開場20周年記念特別公演
2018年5月30日(水)19時開演
新国立劇場オペラパレス
・ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」作品72(新制作)
黒田博(ドン・フェルナンド、バリトン)
ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(ドン・ピツァロ、バリトン)
ステファン・グールド(フロレスタン、テノール)
リカルダ・メルベート(レオノーレ、ソプラノ)
妻屋秀和(ロッコ、バス)
石橋栄実(マルツェリーネ、ソプラノ)
鈴木准(ヤキーノ、テノール)
片寄純也(囚人1、テノール)
大沼徹(囚人2、バス)
新国立劇場合唱団
飯守泰次郎指揮東京交響楽団
カタリーナ・ワーグナー(演出)

今日の東響のエネルギーの凄まじさはどれほどだったか。序曲からメリハリの効いた圧倒的響き。文句なしに期待が高まった。「レオノーレ序曲第3番」も、先日のチョン・ミョンフン指揮東フィル定期の素晴らしい演奏を凌ぐ勢い。音色と言い、音響と言い、強音も弱音も、どの瞬間もパワー全開。参った。

第1幕、煉獄(?)のフロレスタンには影しか見えず、そしてその影に彼は踊らされる。彼には自由の行き渡る天上世界の声すら聞こえないのである。マルツェリーネ(石橋栄実)が素晴らしい歌唱を披露した。第6場、途中男装を解き、フロレスタンへの愛を語るレオノーレ(リカルダ・メルベート)のアリア(第9番)は凄まじいエネルギーを秘め、実に美しかった。そう、ここでレオノーレは、ドン・ピツァロ(ミヒャエル・クプファー=ラデツキー)の影に剣を突き立てたのである(これが因)。第1幕のクライマックスはここ。また、最地下(地獄?)での囚人の合唱の、僅かな光明射しての合唱の相変わらずの崇高さ。そこには希望があった。

30分の休憩後、第2幕は、冒頭、フロレスタン(ステファン・グールド)の神との対話が肝であり、今夜の白眉。あの苦しみ、あの祈り、およそ人間感情のすべてを請け負ったフロレスタンの絶望と希望の錯綜する歌が、どれほど心に沁みたことか。素晴らしかった。

時間を措いて、冷静になった今思う。
すべては幻なのだが、その幻さえ事実であることを認めねばならないようだ。
すべてが事実であることを受容できたときに真の悟りが開かれるのだと、カタリーナは知っているのかも。唖然としたあの解釈は、実はとても奥深い。
そう簡単に解放させて堪るかと、ルシファーが、否、ダース・ベイダーが囁くかのよう。
真の愛を獲得するのは難しい。

主人公たちが信じる「自由」にも切り込んだ。「世界情勢から見ても、自由には様々な解釈があり、刻々と変化している。本当の自由はあるのか、制度が変われば失われるのか。死だけが与えてくれるものなのか」と問いかける。

作品に新たな重点を発見するのが私の喜びです。ただ自分の考えに作品を押し込めることはしない。重点をずらすことはあっても、その重点は必ず、作品の中に含まれているのです。
~2018年5月14日(月)付朝日新聞(夕刊)

カタリーナは天才だ。願わくばもう一度観てみたい。

 

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