深夜に聴くサラ・ヴォーンの声・・・

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この10月から煙草の値段がぐっと上がり、喫煙者にとってはそれでも吸い続けるか、あるいは禁煙するかの選択を迫られる、そんなような事件だったようだ。僕はといえば、大学に入学するや見よう見まね―要はかっこつけで煙草を手にし出した。以来、丸4年間はお世話になったが、アメリカのヨセミテ国立公園を訪れたある日、突然思い立ったように禁煙を始めた。あまりに壮大な自然の神秘や脅威に恐れをなしたのか、それとも自らの小ささに愕然としたのか、ともかくすんなりと止めることができた。 

昨今はどこに行っても基本的に煙草を吸う人は肩身の狭い思いをする。健康を明らかに害することが証明されているし、止めたいと思っているのだから、マッチやライターごと捨ててしまえば良いのに、潔くない人も多いよう。止めて初めて感じるのが、その臭いの強烈なこと。勝手に吸いたいから吸ってると言われればそれまでだが、他人の迷惑になるなら少なくとも人前では吸わないよう心がけた方がよかろう。

僕の子どもの頃、大人はみんな愛煙家だった。それを咎める人はいなかったし、特にアーティストなどの場合、いかにもそれが創造力を掻き立てる道具のひとつになっていたようで、ある意味「憧れた」ものだ。

「女性作曲家列伝」を読んでから俄然女性音楽家に興味を持つようになった。「女性の役割」が固定化されていた時代は、お金を稼ぐことがそもそもNGだったということだから、職業音楽家がいなかっただけで、アマチュアとして活動していた音楽家、作曲家は実はたくさんいたよう。中には想像もつかないような「天才」をもっていた人もいたのかもしれないと思うと、もったいない。歴史の大損失である。

ところで、ジャズ界の女性ヴォーカル御三家の一人、サラ・ヴォーンの歌声はそれ自体「ドラマ」だ。人間の声とは思えない、縦横無尽に駆け抜けるヴィブラートがかった歌は筆舌に尽くし難い魅力をもつ。

Sarah Vaughan:How Long Has This Been Going On?

Personnel
Oscar Peterson(p)
Joe Pass(g)
Ray Brown(b)
Louie Bellson(d)
(1978.4.25録音)

長年にわたりへヴィー・スモーカーだったサラは、今から20年前、末期の肺癌により急逝する。「煙草は止めた方が良い」というものの、ジャズ・ミュージシャンにとって、というよりサラにとって煙草はもはや「自分自身の一部」だったのだろう。バーンスタイン同様、命を縮めることがわかっていても、自らの芸術のために止めるわけにはいかなかった、そういうものなのだと思う。とてもスモーカーには思えない声量と声色の使い分け。否、スモーカーだったから一層感動的な歌を披露することができたのだ、そう考えると、何も悪いものはない。

深夜に聴くサラ・ヴォーンの声は心身に優しい・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。 
・・・・・・斉藤は無類の煙草好きだった。チェロを弾きながらですら煙草を吹かしていることもある。灰皿が近くになければ、灰をチェロのf字孔の中に落とすこともしばしばだった。後年、斉藤のチェロが点検に出されたとき、その中からは恐ろしいほど大量の灰が出てきたという。斉藤は楽器に対する執着はなかった。
 レッスンの間にも灰皿には煙草の吸い殻が二十本ほどもたまっていた。両切りの煙草の端は唾液で汚く濡れていた。・・・・・・ 中丸 美繪 著「嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯」 (新潮文庫) 370~371ページより
煙草と音楽にまつわる連想・・・・・・往年のジャズ喫茶、斎藤秀雄、カザルス、ショルティ&カルショーのリング録音風景、バーンスタイン、サラ・ヴォーン・・・、
斎藤秀雄、カザルス、サラ・ヴォーンの連想から、いつかのように A Lover’s concerto (バッハ 原曲)にいく手もありますが、今回は「煙草工場」→カルメンといきましょう。マリア・カラスの名唱で。
http://www.youtube.com/watch?v=6fZRssq7UlM&feature=related
http://www.hmv.co.jp/product/detail/336552
と、ここまで書いても、どうしても煙草を肯定することが出来ない自分がいます。
春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ
タバコの匂いのシャツに そっと寄りそうから・・・・・・
う~ん、駄目です。今朝はコメントのオチが見つからないまま時間切れです。でも、深夜に聴くサラ・ヴォーンの声は、おっしゃるとおり「心身に優しい」ですよね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
統計をとったわけではないのですが、アーティストに愛煙家は多いように思います。お薦めいただいた菊地成孔の「憂鬱と官能」をひとつひとつ理解を深めようと読んでいるのですが(お陰で時間がかかり、やっと上巻が終わったところです)、彼も相当なへヴィースモーカーっぽいですね。時代は21世紀も10年を経過しましたが、「音楽の世界」は意外にそれほど変わっていないのかなぁ、とも想像します。
もちろん僕もアンチ煙草派です。昔自分で吸っていた頃はまったくわかりませんでしたが、あれは肯定できないですね。基本的に僕の周りでは煙草を吸う人はほとんどいないのですが、それでも外を歩いたり、外食したりするとスモーカーがまだまだ多いので吃驚します。
それと、一昨日の埼玉での音浴じかんでも、食事中にお母さん方の多くが旦那さんの煙草の話で(料金改定の前に何カートン買いだめしたとか・・・)盛り上がっており、赤ちゃんを抱えていてほんとは止めてほしいんだけどなんて言っておられました。止められない人も多いようです。
カラスの「カルメン」の映像は初めて観ました。ありがとうございます。

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