内田光子のベートーヴェン最後のソナタ

beethoven_32_uchida.jpg何日か前、G君から連絡が入った。「16日の夜は空いてる?」と。空いてたものだから、「空いてるよ、ところで、何があるの?」と返信したら、「当日までの秘密」とメールが来て、まぁ、いっかと思い、そのままにしておいた。それで、昨日お店の指定があり、仕事が終わった後、急いでその場に向かった。

行ってみて、吃驚。何と20数年前に、当時受講していたセミナーの仲間たちがいるではないか!「ひょっとして大学卒業以来か?」なんていう輩もいたから余計に吃驚した。何せ顔を合わせた瞬間は誰だかわからなかったぐらい。

大いにしゃべった。何年もの溝を埋めるかのように話しまくった。面白いのは、あっという間に「かつての関係」に戻れるということ。人生のある時期、同じ釜の飯を食べながら切磋琢磨した連中とは切っても切れない何かを感じる。

それにしても皆立派になった(笑)。当時後輩だと思っていた連中も実に40歳を超えているのだから尚更。社会的には相応の身分を保っているが、人間性(本質)はやっぱり変わらない。だから「昔」にタイムスリップできるのだ。

ところで、帰宅後ベートーヴェンを聴いた。最晩年のソナタ集。これほど神の域に達する意味深い音楽が他にあろうか・・・。数年前の、サントリーホールでのリサイタルを思い出すかのように、ひとつひとつの作品をじっくり聴くことで内田の演奏家としての力量に舌を巻く。

ベートーヴェン
・ピアノ・ソナタ第30番ホ長調作品109
・ピアノ・ソナタ第31番変イ長調作品110
・ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
内田光子(ピアノ)

厳しい中に、優しさ、母性をくすぐる音楽たち。昨今の内田にはぴったりの選曲。地に足をつけながら、縦横無尽に「上」とつながる柔軟性をもつ画期的な表現。とにかく「激しい」。感情の坩堝・・・。

愛知とし子ピアノ・リサイタルまであと5日に迫った。ピアニストの練習は佳境に入っているが、(偉そうな言い方だが)随分こなれてきている。独自の解釈。作品111のソナタはこれまで様々な音楽家で聴いてきてはいるが、その誰とも異なる深い表現を披露してもらえるのではないか、そんな風に期待している。期待するとプレッシャーになってしまうだろうが、そんなことはお構いなし。ナビゲーターとして少しばかりお話をする僕自身が一番楽しみにしているくらいなのだから。ハイドシェックを超えよう、そして、内田を超えよう・・・(笑)。

※そういえば、この音盤、だいぶ前に採り上げている。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>ハイドシェックを超えよう、そして、内田を超えよう・・・(笑)。
ハイドシェックはハイドシェック、内田は内田、愛知とし子さんには愛知とし子さんの宇宙があり、併存していて、それぞれが最高なんだと私は思いますよ、量子力学的にいうと・・・(笑)。ベートーヴェンのこの自由で崇高な傑作の演奏に、コンクール的発想の順位付など不要です。
◆「あなたをみんなと同じにしてしまおうと日夜励んでいるこの世の中で、自分以外の誰にもなるまいとするのは、人間のでき得る闘争の中で最も厳しい闘いだ。そしてその闘いをやめてはならない」(e.e.カミングス)
作品111の第2楽章(アリエッタ)は、もう「ジャズ」を超えた「ジャズ」なんだと思う、実際。こんなに解釈の幅が許されるクラシックの曲も少ないと思います。菊地成孔さんにコメントを求めたいくらい・・・。これぞまさしくベートーヴェンの最高傑作、この曲を弾ける愛知さんが羨ましい限りです。ほんと、私もリサイタルが今から最高に楽しみです。
私がシューマンのピアノ曲を好きなのも、ひとつには吉田秀和さんもおっしゃっていた通り、演奏者に委ねられた自由な解釈の幅が、例えばショパンに比べても格段に広いという面白さでしょうね。だから、シューマン:ピアノ・ソナタ第2番ト短調作品22の愛知さん独自の解釈にも期待しています。
東京時代のジャズ好きの同僚が薦める、上原ひろみ のCDにハマっています。
“Place To Be”
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3727444
友人曰く、彼女のジャズのコンサートは、いつも最高だそうです。彼女もバークリー音楽大学卒です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E3%81%B2%E3%82%8D%E3%81%BF
彼女は昔(1994年 15歳)、 NHK趣味百科「ピアノで名曲を」に生徒として出演し、シューマンの「幻想小曲集作品12 (シューマン)」から「飛翔」「なぜに」を演奏したそうですが、ジャズを学んだ後の、今の彼女のシューマン演奏も聴いてみたいものです。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>ベートーヴェンのこの自由で崇高な傑作の演奏に、コンクール的発想の順位付など不要です。
おっしゃるとおりです。それくらいの気持ちでぶつかっていきましょうという、僕なりの激励の言葉だというくらいに受け取ってください。
>こんなに解釈の幅が許されるクラシックの曲も少ないと思います。菊地成孔さんにコメントを求めたいくらい・・・。
同感です。昨日も内田の他、バックハウスのライブ盤などいくつか聴いてみましたが、解釈様々で、しかもどれも素晴らしいんですよね。
上原ひろみについてはテレビで何度か観たくらいで、ライブには触れてないので、何ともわかりませんが、昔放映された「情熱大陸」は観た記憶があります。あのあたりで一気に注目されたらしいですよね。ご紹介のCDについても未聴なので、聴いてみたいところです。
>今の彼女のシューマン演奏も聴いてみたいものです。
興味深いですね、これは。

返信する

岡本 浩和 へ返信するコメントをキャンセル

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む