パガニーニを聴く

paganini_accardo_dutoit.jpgニコロ・パガニーニ。悪魔に魂を売り渡したヴァイオリニストとして聴衆から怖れられた彼は作曲家としても超一流の腕前を誇った。アッカルドがデュトワと録音した協奏曲全集はつとに有名だが、久しぶりにその中から1枚を取り出して聴いてみた。

そういえば僕がまだ社会人になりたての頃、もう20年以上も前の話だが、当時勤めていたイベント会社でとある部長が凄い音楽があるんだと自慢げに語った上で自宅からわざわざ持参、聴かせてくれたのがこのアッカルドのアナログ・レコードだった。件の部長は既に鬼籍に入られたが、会議室で二人してパガニーニの音楽に釘付けになったことあの日のことが忘れられない。20代前半の僕の心を虜にしたテクニカルな名曲であり名演奏だった。

ところで、1月31日(日)15:00から「早わかりクラシック音楽講座」を開催する。34回目となる今回のお題は19世紀ロシアが生んだ天才モデスト・ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。1922年セルゲイ・クーセヴィツキーの委嘱によりモーリス・ラヴェルが管弦楽化したことで一躍有名になったこの音楽は、クラシック音楽にそれほど詳しくない人でもプロムナードといわれる冒頭部は聴いたことがあるだろう傑作である。毎々しつこく書かせていただいているのだが、特に『バーバ・ヤーガ』から『キエフの大門』に至るクライマックスはカタルシスであり、ピアノ原典版にせよラヴェル版にせよ、あるいはストコフスキー編曲版にせよはたまたEL&Pのロック版にせよ精神が高揚する聴かせどころであり、僕など最後のこの部分が聴きたくて何種もの録音を耳にしたり実演に触れたりしているようなものだと言っても言い過ぎではない。実は講座では一度この楽曲を採り上げようと予定した回があった。「あった」と過去形で書くのには事情がある。2年余り前、宇宿允人&フロイデ・フィルの「展覧会の絵」を芸術劇場で聴こうと事前講座とセットでテーマにしたことがあった。コンサートは盛況で何と2日間で40名近くの参加希望があり、大勢でこの類稀な指揮者の極めつけの音楽を堪能させてもらったのだが、残念ながら師走ということも災いしてか(あるいは前回の講座からほとんど時間を開けずに開催したからか)事前講座の方はほとんど人が集まらず中止にしたという経緯があった。今回、2月に愛知とし子が杉並公会堂でのリサイタルで舞台にかけるのに合わせ、その「事前講座」の意味合いも兼ね、ようやくこの曲を採り上げることにしたのである(ちなみに残席まだあるので、ご希望の方はぜひエントリーください)。

ムソルグスキーについてはその生涯までは勉強不足でほとんど無知の状態だった。例によっていろいろ文献を漁っているが、彼の人生は一言ではまったく語れないほど「謎」に満ちており、いろんな意味でより深く研究したくなる。
42歳で亡くなる彼は結婚することも自分の家を持つことも一生涯なかった。役人として仕事はもつものの一定収入を得る以外ほとんど意味あるものではなかったし、国外はもちろんのこと国内旅行すらほぼしたことがなかった。師であるバラキレフや同僚のリムスキー=コルサコフらからは彼のアヴァンギャルドな音楽は理解されなかったという事実を知るとより一層深く面白く聴けるようになる。

それに彼は歴史上の他の天才音楽家同様、幼少時よりその音楽的才能を存分に発揮し、ピアノ演奏の技術はもちろんのこと13歳の時には「旗手のポルカ」というピアノ小品までも作曲しているようだ(それは父親により出版された)。残念ながらこの初出版の音楽は未聴。どうも悪い癖で、ムソルグスキーの音楽をとことん聴きたくなった・・・。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
アッカルドのパガニーニ協奏曲全集はテクニックも音楽性も最高ですね(私の実演体験では、カントロフの妖しい技術の切れ味が、まさにパガニーニでした)。
悪魔に魂を売った男・・・、パガニーニの弾くヴァイオリンで女性の失神者が続出したといいますから、羨ましい限りです(コラコラ 笑)。ちなみに、現代の学問的に正しいと信じられているピリオド奏法では、まだヴァイオリンで女性をイカせるまではイッテないと思います(コラコラ)。
ピアノ界でパガニーニのような妖しさを漂わせていたのはホロヴィッツでしょうね。彼も神業演奏で、数多の女性達を失神させたそうです。彼の「展覧会の絵」の録音も凄いですよね。実演体験してみたかった(デートの相手に横で失神されたら、面目丸つぶれでイヤですけど)。
でも、芸術家・表現者として、悪魔と契約したくなる気持ちはよくわかります。営業やってる人だって、悪魔がノルマの百倍の売上げを約束してくれたら、契約したくなるでしょう(だから逮捕される人が出てくる)。
高速道路で、スピードを200キロ以上出したい気持ちなんかも、悪魔に魂を売る行為でしょうね。サッカーにも、「赤い悪魔」という愛称のチームがあります。人は、レッドゾーンの向こう側に憧れるんですよね。
悪魔と神は「紙一重」です。神秘体験とオカルトもまた、紙一重です。パガニーニはヴァイオリンの神業で、ムソルグスキーはアルコールの力で、あっち側にトリップしたのでしょう。いけないことですが、芸能人が麻薬や女や男に手を染める気持ちも、よく理解できます。あっち側に行きたいのが芸術家なのですから・・・。そういえば、マイケル・ジャクソンも亡くなる直前のステージのリハで、『キエフの大門』(ラヴェル編曲)を使用していました。本当にあっち側に逝っちゃいました。
私のおススメは、「やさしい悪魔」 吉田拓郎
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%B7%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%B9%E3%81%88%E3%81%A8-%E7%B4%99%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E4%BB%95%E6%A7%98-%E5%90%89%E7%94%B0%E6%8B%93%E9%83%8E/dp/B000EAV8KM/ref=sr_1_14?ie=UTF8&s=music&qid=1264368606&sr=8-14
http://www.youtube.com/watch?v=6_FKTa6njb4&feature=related
買ってね!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
パガニーニの神業、羨ましいですよね。それとホロヴィッツのピアノ。おっしゃるように「ひび割れた骨董」ではなく、全盛期の実演に触れてみたかったです。
>悪魔がノルマの百倍の売上げを約束してくれたら、契約したくなるでしょう
>人は、レッドゾーンの向こう側に憧れるんですよね。
確かに!!
>マイケル・ジャクソンも亡くなる直前のステージのリハで、『キエフの大門』(ラヴェル編曲)を使用していました。
そうなんですか!恥ずかしながら僕はこの映画を実はまだ観ておりませんで・・・。何だか意味深いです。
拓郎バージョンの「やさしい悪魔」は初めて聴きましたが良いですねぇ。買います(笑)!

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岡本 浩和

>雅之様
ありがとうございます。
しかし、この直後に亡くなるとは思えない姿ですね。

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