シューマンの妖気

Schumann_manfred_klemperer.jpgさて、明日は「恋物語」マチネ&ソワレである。ショパンやシューマンの楽曲をこれだけ集中的に聴くことは珍しい。若い頃に追っかけていたショパンはともかく、シューマンについてはこれほど「意識して」聴いたことはなかったかもしれない。ほとんど顧みない書棚のひとつから多分25年くらい前に購入した前田昭雄著「シューマニアーナ」を発見し、久しぶりにざっと読み返してみた。おそらく当時はほとんど理解していなかっただろうと思われる深い内容。前田先生の文章は長らく「レコ芸」で愛読しているが、こんな本を所有していたなどとはついぞ忘れていた。例えば、「シューマンの《ファウスト》について」は、ロベルト畢生の傑作と思われるこの音楽について非常にわかりやすく解説されたもので、「ファウスト」の情景を理解する上で、というよりこの作品の重要性を理解し、その入口に立つための必携の評論と言っても言い過ぎでないほど。これを機にますますシューマンの奥深い世界にのめり込みそうで、何だか恐ろしい・・・(笑)。

世の天才作曲家たちはこぞってこのゲーテの大作の音楽化を図っているが、中でも飛び切りの名曲をシューマンは残したのだと思うのだが、いかんせんまだまだ僕の聴き込みがあまく、蘊蓄含め何かを語れるまでに至っていない。あるいは、原作についても、何度も読み返しているものの、僕自身真髄まで理解したとは言い難い。書けるとするなら、もう少し年輪を重ねて、思考を深め、概ね理解するにいたった段階でだろうか。

晩年のシューマンの音楽には、ただならぬ妖気が漂っている。それは精神に異常を来したことが原因のひとつなのかもしれないが、例えば「マンフレッド」序曲の第2主題部の第1ヴァイオリンで奏される旋律やチェロ協奏曲第1楽章の、最初のチェロ独奏の直後オーケストラが奏する部分、など一旦引き摺りこまれたら抜けられないのではという印象を与える恐ろしさ―恐ろしさなのだが、ついつい身を委ねてしまいがちになる魅力に溢れている。

晩年のクレンペラーの重厚な表現がそれに輪をかける。

シューマン:
・「マンフレッド」序曲作品115
・歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲作品81
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

ウェーバーやフンパーディンク、さらに指揮者自身の作曲作品を収録した1枚からシューマン作品を。これだけ重心が安定していると、シューマンの精神異常、不安定が嘘のように響く。ゆらゆら揺らめきながら、軸はしっかりしているという不思議な安心感がこの録音の魅力。

シューマンについていろいろと深く探っていくと面白い。クリエイターでもあり、プロデューサーでもあったロベルト・シューマンの山あり谷ありの人生。19世紀前半のヨーロッパの混迷を驚くようなビジネス・アイデアと天才的な創造力で切り抜けた天才の傍には綺羅星のごとく優秀な人材が集まった。そこにはメンデルスゾーンがいて、ショパンもいて、ブラームスもいた。そして、もちろん愛するクララも・・・。

※ちなみに、「ヘンゼルとグレーテル」からの音楽も抜群!

2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ご紹介のクレンペラー盤の安定感は、私も大好きです。
それに、前田昭雄著「シューマニアーナ」は示唆に富んだ名著ですよね。
ご紹介の「シューマンの《ファウスト》について」の項もそうですし、「シューマンとブラームス―――19世紀の交響曲」でも、いろんなことを考えさせられます。
シューマンはバッハやベートーヴェンからの影響を強く受け、ブラームス、チャイコフスキー、マーラーもショスタコーヴィチたちは、シューマンから多大な影響を受けていますね。
※参考CD
シューマン ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲(ショスタコーヴィチ編) I.オイストラフ、ルザノフ、ロジェストヴェンスキー&モスクワ放送響、ソビエト文化省響
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2759861
そしてゲーテ「ファウスト」繋がり・・・、ベルリオーズ『ファウストの劫罰』、シューベルトでは『糸を紡ぐグレートヒェン』、リスト『ファウスト交響曲』、マーラー「交響曲第8番」・・・、クラシック音楽を深く理解するためには、聖書同様、こうした戯曲や小説など、文学の知識も大切なのでしょうね・・・、私もその点ではまだまだ到底勉強不足なのだと痛感します、前田さんの書かれた書物などを読むと・・・。
ゲーテ同様、E.T.A.ホフマン繋がりなんていうのもありますよね。シューマン『クライスレリアーナ』、ワーグナー、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』『タンホイザー』『さまよえるオランダ人』、チャイコフスキー『くるみ割り人形』、ドリーブ『コッペリア』、オッフェンバック『ホフマン物語』、ブゾーニ『花嫁選び』・・・、みんな地下水脈で繋がっているのでしょうか。そのE.T.A.ホフマンについても、まだまだ知識不足です・・・、知らないことばかりだと、ああ、何だか眠くなってきました。
・・・・・・クリスマス・イブの夜、ドイツのシュタールバウム家の大広間ではパーティーが行われている。少女クララはドロッセルマイヤー老人からくるみ割り人形をプレゼントされる。ところが、取り合いになり兄のフリッツが壊してしまったので、ドロッセルマイヤー老人が修理する。
客も帰りみんなが寝静まってから、クララは人形のベッドに寝かせたくるみ割り人形を見に来る。ちょうど時計の針が12時を打つ。すると、クララの体は人形ほどの大きさになる(舞台ではクリスマスツリーが大きくなることで表現される)。そこに、はつかねずみの大群が押し寄せる。くるみ割り人形の指揮する兵隊人形たちがはつかねずみに対し、最後はくるみ割り人形とはつかねずみの王様の一騎打ちとなり、くるみ割り人形あわやというところで、クララがスリッパをはつかねずみの王様に投げつけ、はつかねずみたちは退散する。倒れたくるみ割り人形が起きあがってみると、凛々しい王子になっていた。王子はクララをお菓子の国に招待し、2人は旅立つ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8F%E3%82%8B%E3%81%BF%E5%89%B2%E3%82%8A%E4%BA%BA%E5%BD%A2
倒れたくるみ割り人形が起きあがってみると、凛々しい王子になっていた・・・その王子こそが、ロベルト・シューマンなのであった・・・。
はっ! 寝てた、夢か!!
大変、明日は大切な日だ!、こんなコメントだらだら書いてる場合じゃないです。大事な明日に備えて、はやく布団かぶって寝ることにします(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ご紹介のショスタコ編によるシューマンのチェロ・コン未聴ですが、面白そうですね。これは聴いてみます。ありがとうございます。
>E.T.A.ホフマン繋がりなんていうのもありますよね
おっしゃる通りです。あらゆる文化や社会的背景に精通しない限り完全に理解するっていうことはありえなさそうですね。本当に底なし沼のようです。(だから面白いんですが)
>その王子こそが、ロベルト・シューマンなのであった・・・。
お!それはなかなか面白い!!
明日、お会いできることを楽しみにしております。

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