愛知とし子の「作曲家の恋物語」

koimonogatari_101127.jpg「恋物語」無事終了です。晩秋の成城サローネ・フォンタナにて。マチネとソワレの2公演をやり遂げたピアニストはもはや疲労困憊(笑)。抜群の響きを誇るサロンで、イェルク・デームスが選んだアンティーク・ベーゼンドルファーが(文字通り)揺れながら最高の音を奏でる。特に、事前の解説がためになったようで、喜んでいただけて良かった。ありがとうございます。昼夜ともまた違った風情で、少しずつ異なった演奏を繰り広げる様はもう見事としか言いようがない。ソワレの部で、ある男性愛好家が、ショパンがドラクロワの前で弾いた(らしき)ベートーヴェンの最後のソナタを、そういう観点で聴いたのは初めてで、ともかく崇高な第2楽章の、圧倒的な音列、音運びに度肝を抜かれ、日常愛して止まなかったいわゆる3大ソナタ(「悲愴」、「月光」、「熱情」)が霞んで思えたほどだったとおっしゃっていたことに感激した。そうやって、新しいファンを掴んでいくことが、芸術家にとってどれほど大切なことか。やはり、西洋古典音楽の裾野を少しでも広げていくことが、大袈裟だが我々の使命でもあるとあらためて感じさせられた一日だった。

早わかりクラシック音楽講座4周年記念コンサート
「作曲家の恋物語」
~ショパン&シューマン生誕200年によせて~
2010年11月27日(土)マチネ:11:00開演、ソワレ:18:00開演
サローネ・フォンタナ(成城学園前)
・J.S.バッハ:パルティータ第5番ト長調BWV829
・シューマン:ピアノ・ソナタ第2番ト短調作品22
・ショパン:舟歌嬰ヘ長調作品60
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
アンコール
・クララ・シューマン:4つの束の間の小品作品15~第1曲
愛知とし子(ピアノ)、岡本浩和(ナビゲーター)

人気はベートーヴェン、かと思いきや、意外にもクララ・シューマン。実は夫のロベルトより作曲の才能豊かだったのではないかと思わせるほどの腕前。しかも、ピアニストとしても超一流の、当時のヨーロッパでイチローのような存在だったわけだから旦那が嫉妬しても仕方がないといえば仕方がないかも。今後女性作曲家の作品を採り上げてみようかと愛知とし子が思うほどだから、今後興味深い隠れた作曲家が発掘されるだろう。乞うご期待です。

とはいえ、ベートーヴェンの最後のソナタ、最高でした。本当に天にも昇る「無」の境地。聴覚を失った楽聖が心の声を聴きながら書いたであろう最高傑作。もはやピアノ・ソナタの分野でこれ以上作品を書けまいと悟ったことが如実に伝わる演奏だったことを付記する。
もちろん、シューマンの第2ソナタも迫真の演奏。急速テンポで、若きシューマンのクララへの愛、前のめりの情熱と切なさがびんびん伝わってくる演奏だった。

嗚呼、いつまでも浸っていたい、そんな時間。まさにゲーテの「ファウスト」にある「時よ止まれ、お前は美しい」、その言葉がぴったりの瞬間。安寧と平和に感謝。北朝鮮の独裁者に聴かせたい・・・(笑)。

ちなみに、ソワレの終了後、若干のお客様が帰られた後、特別リクエストにお応えして、ブラームスの作品118-2が披露された。どうせならこれも最初からプログラムに加えておいて欲しかったという声も。

※ご来場いただいた何人かの方がすでにブログに感想を書いてくださっています。↓
男性のためのマナーコンサルタント宗像智子さん
ローズハーツのヒロママさん
筋肉美容アドバイザー宮武辰人さん

ありがとうございました。


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
昨日はありがとうございました。そして、全3公演の大成功、心よりお慶び申し上げます。
私も、事前の大きな期待値よりももっともっと大きく上回る、愛知とし子さんの超名演で、とてつもなく深い感銘を受けた聴衆のひとりです。お世辞とかいっさいなく、天地神明に誓って(笑)、今年私が聴いたどのコンサート、リサイタルより比べものにならないくらいに感動しました。外来ピアニストS氏よりも、私が最高クラスの邦人ピアニストだと思っているUさん、Kさんのリサイタルよりも、感動の度合いは問題にならないくらい今回の愛知さんのほうが遥かに大きかったです。 私は、マチネのほうしか聴くことができなかったのが、残念で堪りませんが・・・。
バッハも生命力にあふれた演奏でじつによかったですが、シューマンの2番のソナタがまた私の事前の予想をはるかに超えて最高でした。飛翔するくらい前のめりの演奏、これこそ「青春の音楽」シューマンのこのころのピアノ作品の本質そのものですよね。テクニック的にも万全。愛知さんはシューマンのスペシャリストに充分なれるじゃないですか!!(笑)
ショパンも期待以上で満足しましたが、最後のベートーヴェン作品111については、もはや筆舌に尽くしがたい域の素晴らしさでしたね。愛知とし子さんの演奏で聴く第2楽章は「昇天」というよりも「希望」そのものであり、それがアンコールのクララ・シューマン作曲の「束の間の小品」の空気に上手くつながり、もう、万感の思いで何も言うことがないくらいです。マチネはクララ・シューマンで終わり、ソワレはさらにブラームスの作品118-2が加えられたとのことですが、昼と夜の演奏会の特色の違いから余韻の質を変化させられたのは、正解だったのではないでしょうか。それだけに、私も夜の部も聴きたかったです。
岡本さんのお話もまたセンスがよく、大いに音楽を聴く助けにもなり、人心を惹きつけていたと思います。100点満点での200点、いやもっとそれ以上か?(笑・・・でも、こちらもお世辞抜きです)
今回の演奏会場、サローネ・フォンタナもよかったですね。演奏者と聴衆ととが一体になれる理想の場所は、ああいう空間なんだという想いを深くするばかりです。
マチネとソワレの合間の貴重な休息の時間に、ご夫妻でお相手してくださいましたこと、心底感謝いたしております。また、とし子さんのお母様お手製の、絶品な松茸入りおにぎりや、ワインなど、ずいぶんご馳走にもなり、本当にありがとうございました。じつに楽しかったです!
こんなに素晴らしいリサイタルを聴けて、夢みたいです。
これほど高水準な公演が3回だけというのも、もったいない話です。ぜひいつか再演を!!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
こちらこそ、昨日は遠方よりのご来場誠にありがとうございました。ともかく雅之さんには聴いていただきたかった会だったのでいらしていただけたことにまずは感謝いたします。
それと、終演後に少しお話させていただいた時にもコメントをいただきましたが、少々ほめすぎなのでは・・・(笑)。
いずれにせよ、ご指摘のようにマチネでのシューマン、良かったですね。3回の中でも1番だったのではないでしょうか。
>飛翔するくらい前のめりの演奏、これこそ「青春の音楽」シューマンのこのころのピアノ作品の本質そのものですよね。
まぁ、これは本人の「せっかち」という性格が功を奏したのかもしれません(笑)。
>愛知さんはシューマンのスペシャリストに充分なれるじゃないですか!!
いけるかもしれませんね、それは。本人の気持ち次第でしょう(笑)。
>第2楽章は「昇天」というよりも「希望」そのものであり、それがアンコールのクララ・シューマン作曲の「束の間の小品」の空気に上手くつながり、もう、万感の思いで何も言うことがないくらいです。
この言葉、ハッとしました。ほんと、「希望」に満たされてましたね。
>ソワレはさらにブラームスの作品118-2が加えられた
これは厳密には、一旦締めた後に、残った観客(大半が残っていましたが)のリクエストにお応えしてという感じでしたので、少しニュアンスは異なるのですが・・・、まぁでも素晴らしかったです。
>それだけに、私も夜の部も聴きたかったです。
ほんとです!!雅之さんには本当は夜も是非聴いていただきたかったのですが・・・(涙)。こればっかりは仕方ないですね。
>岡本さんのお話もまたセンスがよく、大いに音楽を聴く助けにもなり、人心を惹きつけていたと思います。
いやいや、まぁまぁ・・・(苦笑)、こちらはおまけのようなものですから・・・。
>ぜひいつか再演を!!
中部あたりでできるといいですね!

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