サロネン指揮ロサンジェルス・フィルのハーマン映画音楽集(1996.4録音)を聴いて思ふ

ヒッチコックにおいて私が賞讃を惜しまないのは、「どうやったら理解されるか」という質問への解答です。多くの出来事の速度を落とし、困難さをひとつひとつ分割して解消してゆき、映像における熱烈なまでの形体化の彼の方法が私には好ましいのです。ただひとつのことを示さなければならないとしたら、その周りでさまたげているすべてを除去しなければなりません。しばしばヒッチコックの仕事はルノワールの反対なのですが、私は二人の総合である形体の仕事を夢見ています。
(フランソワ・トリュフォー)
梅本洋一責任編集 シネアルバム115「フランソワ・トリュフォー」(芳賀書店)P21

いわばシンプルさの追究。残るものすべてはそこに収斂され行くのだと思う。
僕は映画については疎い(ヒッチコック監督についても知識は皆無と言って良い)。
特定の、好きな監督の作品については繰り返し鑑賞してきたが、そもそも幅があまりにも狭く、映画そのものについて蘊蓄を語れるほどの力と経験を持っていない。無念。

エサ=ペッカ・サロネンがロサンジェルス・フィルと録音したバーナード・ハーマンの映画音楽作品集は、当の映画について詳しく知らずとも、ハーマンの持つ音楽の、映像を超えるだろう、あるいはリアルに僕たちの想像力を掻き立てる力に唖然とするほどだ。
脱力のサロネン。音楽は縦横に飛翔し、エネルギーに満ちる。それに、何より美しい。

バーナード・ハーマン:映画音楽集
・アルフレッド・ヒッチコック「知りすぎていた男」(1955)前奏曲
・アルフレッド・ヒッチコック「サイコ」(1960)弦楽のための組曲
・アルフレッド・ヒッチコック「マーニー」(1964)組曲より
・アルフレッド・ヒッチコック「北北西に進路をとれ」(1959)序曲
・アルフレッド・ヒッチコック「めまい」(1958)組曲
・アルフレッド・ヒッチコック「引き裂かれたカーテン」(1966)組曲
・フランソワ・トリュフォー「華氏451」(1966)弦楽器、ハープとパーカッションのための組曲
・マーティン・スコセッシ「タクシー・ドライバー」(1976)管弦楽のためのナイト・ピース
エサ=ペッカ・サロネン指揮ロサンジェルス・フィルハーモニック(1996.4.15&16録音)

サロネンはかく語る。

それぞれの楽曲は作曲家が使うことばによって書かれています、それは「音楽のことば」です。芸術家や鑑賞者はそのことばを介して作曲家の思いに触れます。ですから必ずしもその国の文化や環境そのものを、知識として知る必要はないんですね、むしろそれは楽曲のことばのなかに現れますから、そこを深く楽しめばよいのです。
(2014年12月)
エサ=ペッカ・サロネンに聞く Vol.1

「音楽のことば」を知るが良い。
映像なくして音楽だけで語り聴かせるバーナード・ハーマンの魔法。
そして、ハーマンのスコアを卓越した棒で端正に音化するサロネンのセンス。
トリュフォーの「華氏451」に魂が揺れる。

私に映画を撮る勇気を与えてくれるのは、映画では孤独だと感じないことです。
(トリュフォー、ル・モンド・1962年1月27日)
~同上書P20

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