ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団第670回定期演奏会

皆大歓喜。音楽のもつ無限の力を垣間見た。
ベンジャミン・ブリテンもドミトリー・ショスタコーヴィチも人心を鷲づかみにする。こういう音楽を聴かせられて感動するなというのが土台無理なこと。ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団は相変わらず圧倒的だった。

ブリテン唯一のヴァイオリン協奏曲を聴いた。途轍もない名曲だとあらためて思った。ジョナサン・ノット指揮するオーケストラと独奏のダニエル・ホープとの息はぴったり。完璧に一体となる音の洪水に僕の心は端から震えた。
20世紀の、火の災いの時代に、めらめらと冷たい炎が燃え盛る。第1楽章モデラート・コン・モートは、管弦楽の、耳について離れない独特のリズムの上に、ヴァイオリン独奏による哀愁を帯びた旋律が乗るが(ちなみに、後半では管弦楽と独奏ヴァイオリンは役割を逆転する。それがまた妙)、ホープ渾身の演奏は光と闇が都度交代するかのように動的かつニュアンス豊かで、本当に素晴らしかった。続く第2楽章ヴィヴァーチェは、ショスタコーヴィチ顔負けのお道化た音楽だが、何と言ってもカデンツァの第1楽章の回想シーンが堪らない(ホープの想いのこもった独奏!)。そして、アタッカで奏される終楽章パッサカリアは圧巻。この、葬送のような暗澹たる(それでいて)厳粛な音楽こそブリテンの最高傑作の一つといっても過言でない。あらゆるカルマを背負い、浄化せんと葛藤する魂の雄叫びを、これほどまでに見事に音化したものが他にあるのか、今宵のホープとノットの指揮東響の演奏においては、コーダの祈りに向け、音楽は透明さを一切失わず、最後は見事に昇天、純化した。もはや言葉がない。

ちなみに、カーテンコールで、ホープは「こんばんは」と日本語で挨拶した後、ブリテンと同時代のチェコの作曲家エルヴィン・シュルホフの作品だと紹介し、徐にアンコールを奏した。これがまた、旋律に富む、そしてヴァイオリン一挺でありながら拡がりのある重厚な音楽だった。

東京交響楽団第670回定期演奏会
2019年5月25日(土)18時開演
サントリーホール
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
水谷晃(コンサートマスター)
ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団
・ブリテン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品15
~アンコール
・エルヴィン・シュルホフ:ヴァイオリン・ソナタ第2楽章アンダンテ・カンタービレ
休憩
・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調作品47

20分の休憩後は、泣く子も黙るショスタコーヴィチ。
いやはやノットの完璧なドライヴと、東響の壮絶な演奏に第1楽章モデラート—アレグロ・ノン・トロッポから絶句。特に、第2楽章アレグレット冒頭のチェロ、コントラバスの猛烈な攻勢と轟音に度肝を抜かれた(それでいて色気を失わない瑞々しさ)。あるいは、第3楽章ラルゴのクライマックスでの咆哮、そして、終楽章アレグロ・ノン・トロッポのコーダにおける圧倒的阿鼻叫喚!
どの瞬間も音楽的でまたパワーに満ち、交響曲第5番はやっぱり傑作だと再確認。絶妙なギアチェンジと猛烈なスピードにもかかわらず、一糸乱れぬアンサンブルと各楽器の独奏(特にフルートやオーボエ、クラリネット!)の味わい深い巧みさに僕は惚れ惚れ。呼吸することさえ忘れていたくらい。終演後、客席から作曲者が舞台に上げられたかのような錯覚を起こすほどの聴衆の熱狂ぶりに(オーケストラが退いた後にノットが再登場、猛烈な嵐の如くの拍手喝采)、普段は冷静な僕も随分熱くなってしまった。

闘争から勝利へという公式通りの展開に、わかっていても思わず感動するショスタコーヴィチの音楽の凄まじさ、そして尊さ。闇の深い時代であるからこそ生まれた2つの音楽作品が、今宵、サントリーホールのステージ上でこれ以上ない強烈な光を放っていた。

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