“GETZ / GILBERTO Stan Getz Joao Gilberto featuring Antonio Carlos Jobim” (1964)を聴いて思ふ

京都は曇り空。
東京は雨。
雨夜の「イパネマの娘」(ヴィニシウス・ジ・モライス作詞/アントニオ・カルロス・ジョビン作曲)。史上最も名高い「イパネマの娘」は、1963年3月の、スタン・ゲッツ(テナーサックス)、ジョアン・ジルベルト(ギター、ポルトガル語ヴォーカル)、アントニオ・カルロス・ジョビン(ピアノ)、アストラッド・ジルベルト(英語ヴォーカル)が残したヴァージョンだといわれる。
1959年にジョアンとアストラッドは結婚するも、この歌が爆発的なヒットをした1964年の時点ではすでに関係は冷えていて、間もなく二人は離婚したという。

何だか雨の七夕にとても相応しい。

レコーディングの最中、ボサ・ノヴァのニュアンスを解せないゲッツに苛立ったジョアンが「このグリンゴに、お前はバカだといってくれ」と罵倒し、しかし気を利かした通訳役のジョビンが「彼はあなたとレコーディングするのが夢だったといっています」と伝えたところ、ゲッツのほうは「どうも彼はそうはいっていないみたいだね」と皮肉っぽくこたえた・・・。
(藤本史昭)
~UCCU-5002ライナーノーツ

・GETZ / GILBERTO Stan Getz Joao Gilberto featuring Antonio Carlos Jobim (1964)

Personnel
Stan Getz (tenor saxophone)
João Gilberto (guitar, vocals)
Antônio Carlos Jobim (piano)
Sebastião Neto (double bass)
Milton Banana (drums, pandeiro)
Astrud Gilberto (vocals)
(1963.3.18&19録音)

この、わずか30数分のアルバムは、時代を超え、僕たちの脳みそを刺激する。
スタン・ゲッツの朗々としたサックスは、どの瞬間も哀愁を帯びる。
どんよりした、幻想的なジョアンのヴォーカルに対して、(当時まだ無名であり、飛び入りで参加した)アストラッドのヴォーカルの垢抜けた、可憐な現実的な「音」の対比こそが、(例えば)「イパネマの娘」を格別にヒットさせる引金になったのだろうと思う。

それは純粋な「大いなることば」だった。それは宇宙が無限の時の中を旅する理由を説明する必要がないのと同じように、説明を要しないものであった。少年がその瞬間、感じたことは、自分が、一生のうちにただ一人だけ見つける女性の前にいるということだった。そして、ひと言も交わさなくても、彼女も同じことを認めたのだった。世界の何よりもそれは確かだった。彼は両親や祖父母から、結婚相手を決める前には、相手と恋におち、相手を本当によく知る必要があると言われていた。しかし、おそらく、そのように言う人たちは、宇宙のことばを一度も学んだことがないのだろう。なぜなら、そのことばを知っていれば、砂漠のまん中であろうと、大都会の中であろうと、この世界には、誰か自分を待っていてくれる人が必ずいると理解するのは簡単だからだ。そして、そのような二人が互いに出逢い、目と目を合わせた時、過去も未来も、もはや重要ではなくなる。その瞬間しかないのだ。そして、太陽の下にあるものすべては、ただ一つの手によって書かれているのだということを、驚くほどはっきりと確信するのだ。これこそ、愛を呼びさまし、この世のすべての人のために、双子霊を造った手だった。このような愛がなかったならば、人の夢は何の意味もないだろう。
パウロ・コエーリョ/山川絃矢+山川亜希子訳「アルケミスト 夢を旅した少年」(角川文庫)P110-111

先述の通りこのアルバムは、メンバーの互いの協力の下、順風満帆に生み出されたものではない。しかし、“GETZ /GILBERTO”こそ「宇宙の大いなることば」のひとつなのだと僕は思う。
昨日(7月6日)、ジョアン・ジルベルトがリオデジャネイロにある自宅で亡くなったそう。享年88。ご冥福をお祈りします。

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2 COMMENTS

ナカタ ヒロコ

こんにちは。このアルバムが出てきて、うれしくておじゃましています。
このアルバムは私にとっての唯一無二かもしれないジャズ類似分野の永久保存版です。
そしてここに書かれている、このアルバムの魅力の分析は、なるほど!です。このアルバムを聴いた当時は、その大人の雰囲気に憧れ魅了されて夢中になりました。「イパネマの娘」の調子のいいメロディーとポルトガル語の歌詞に、意味も分からないまま口ずさみました。でも当時はどちらかというとジルベルトよりスタン・ゲッツのサックスの方に惹かれていて、ゲッツのCDをたくさん買いました。(この後ゲッツのサックスはクールジャズとか言われて好評を博したのですネ。)レコーディングではそのような二人のエピソードがあったのですか。二人の間でなんとかしようとするジョビンが健気ですね。今はジョアン・ジルベルトのボサノバに懸ける思いの深さに感銘を受けます。ヴィニシウス・ジョビン・ジルベルトによるボサノバの数々は素晴らしいですね。ポルトガル語の歌詞の人生や愛への考察の深みにも憧れます。ありがとうございました。

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岡本 浩和

>ナカタ ヒロコ 様

いやはや、ナカタ様もこのアルバムが永久保存版だと言っていただけうれしい限りです。ジルベルトよりスタン・ゲッツのサックスに惹かれたというのがまた興味深いですが、よく考えると、このアルバムはスタン・ゲッツが主導権を握っていますからね・・・。ゲッツのCDをたくさん買い込まれたというエピソードが何とも微笑ましいです。(笑)

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