
ピアノは私の言葉であり、人生であり、かけがえのない親友でもある。
(フランツ・リスト)
僕はフランツ・リストの優秀な聴き手ではない。
しかし、そういう僕でもソナタロ短調については、手放しで賞賛できる。
齢を重ねるにつれて思うのは、演奏解釈は余計なものを足さず引かず、楽譜に忠実でありながら繊細かつ大胆なものが好くなるということだ。
リストの場合なら、アルフレート・ブレンデル(彼は決して優等生的な演奏をしたというわけではない)。脱力の美しさがそこにはある。
ピアノ・ソナタロ短調S178。
1853年2月2日完成。幻想曲ハ長調を献呈されたお返しに、リストはロベルト・シューマンにこの作品を捧げた。楽譜が出版されたとき、シューマンはすでに鬼籍に入っていたが、ワイマールでリストがこの曲を演奏したとき、悲しみに打ちひしがれたクララもブラームスも満足せず、ただ一人ワーグナーだけが絶賛したという。公には、1857年になってようやくハンス・フォン・ビューローによってベルリンで初演された。
リストの曲は、鳴りはじめたとたんに、こうした揺るぎない天才的な楽想が力強く語りかけてくるので、私はしばしば最初の16小節を聴いただけで、「うん、すべてわかったぞ!」と驚きの叫びをあげずにはいられなかったほどです。これこそ、リストの作品群の際立った特徴でしょう。
山崎太郎訳「フランツ・リストの交響詩について」(1857年2月17日付、マリー・ヴィットゲンシュタイン宛て書簡)
~ワーグナー/三光長治監訳/池上純一・松原良輔・山崎太郎訳「ベートーヴェン」(法政大学出版局)P316
思念のうねりと内なる官能の賜物。
破格の、30分強の単一楽章の中に秘められた、ソナタとしてのあらゆるパートの合体という奇蹟。
「2つの伝説」については、主題の抹香臭さに、それも、取ってつけたような恣意性に長い間抵抗感があったが、ある日、久しぶりにブレンデルの演奏を聴いて腑に落ちたという体験がある。特に、第2曲「パオラの聖フランチェスコ」冒頭のユニゾンによる堂々たる旋律の聖なる美しさ!そして、音の拡がり!
さらに、ワーグナーの死を予感して書かれた2つの「悲しみのゴンドラ」の、暗く不気味な音調と、調性を逸脱するかのような革新性に、僕は思わず目を瞠る。