サロネン指揮ストックホルム室内管 シェーンベルク 浄められた夜(1991.10録音)ほかを聴いて思ふ

革新者アーノルト・シェーンベルク。
19世紀後半のヨーロッパ世界に多大な影響を及ぼしたヨハネス・ブラームスとリヒャルト・ワーグナーという二人の天才のDNAを受け継ぎ、統合、ついに新たな道を切り開いた創造者である。
後期浪漫の匂い薫る「浄められた夜」に関する作曲者自身の覚書には、次のようにある。

一方にはヴァーグナー流の徘徊する和声の上での「反復進行」があり、他方には、ブラームスの「展開的変奏技法」と私が命名したものにならってつくった主題的構造がある。小節数が不規則な楽句構成もブラームスの影響とすることができる。しかし、楽器の取り扱い、楽器の組み合せ、その結果生じる音の響き、それは無条件にヴァーグナー的であった。もっとも私はいくつかのシェーンベルク的なものも見られると信じている。
アーノルト・シェーンベルク「我が進化」
石田一志著「シェーンベルクの旅路」(春秋社)P31

これぞ止揚(アウフヘーベン)!!
いわば真似事の中から人は自分自身の在り方に出逢うのである。
だからこそ、何にせよ体験することが一番なのだ。

それにしてもサロネンの思念の深いこと!
もっと客観的で冷静な音楽を想像したが、音の一粒に驚くほどの感情が乗る。まるで、リヒャルト・デーメルの詩について、同様の体験があるかのように、あまりに艶っぽい音が内から鳴り響くのである(あくまで内からだ)。

私は子供を宿しています。でもあなたの子供ではありません。
私は罪を背負ってあなたのお側を歩いています。
私はひどい過ちを犯してしまったのです。
もはや幸福があるとは思いませんでしたが、
でもどうしても思いを絶てなかったのです。

~同上書P32

官能と退廃という表裏。芸術というものの真価がここにはある。

シェーンベルク:
・浄められた夜作品4(弦楽合奏版)(1991.10録音)
・弦楽四重奏曲第2番嬰ヘ短調作品10(弦楽合奏とソプラノのための版)(1993.6録音)
フェイ・ロビンソン(ソプラノ)
エサ=ペッカ・サロネン指揮ストックホルム室内管弦楽団

また、(妻マティルダの不倫と、その相手であった若手画家リヒャルト・ゲルストルの自殺をきっかけに生み出されたという)いよいよ本格的に無調の世界への第一歩を踏み出した、ソプラノ付弦楽四重奏曲の(特に弦楽合奏版は)まるでサロネンのために存在するような暗い知性!

第3楽章はシュテファン・ゲオルゲの詩「連禱」による緩徐楽章。
そして、終楽章は同じくゲオルゲの「忘我」によるソナタ形式の歌。

私は他の惑星の大気を感じる。(「忘我」冒頭)

魂だけの存在になったとき、人は規範や常識を逸脱する。忘我とは、おそらく真理の世界に足を踏み入れることだ。そのことをシェーンベルクは調性を破壊することで表現しようと試みた。この不穏な、拠りどころのない不安定な音調が、心に響く。合奏の厚みが音楽の意味を一層深くする。

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