プラッソン指揮トゥルーズ・キャピトール国立管 グノー 交響曲第2番ほか(1979.3録音)

マダム・ヘンゼルは人並み外れた音楽家であり、すばらしいピアニストであり、才気溢れる女性だった。体つきは小柄だが、活力に溢れ、それは彼女の深い目と燃えるようなまなざしから感じ取られた。彼女は作曲家として稀な才能に恵まれていた。
(グノー「回想録」)
山下剛著「もう一人のメンデルスゾーン―ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯」(未知谷)P154

手放しの賞賛だ。純朴なシャルル・グノーは、若い頃、ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの影響を大きく受けたという。

特にグノーはものすごく元気いっぱいだった。そして私が彼にどんな影響を及ぼしているか、彼が私たちといてどんなに幸せかということを私に表現しようとして、彼はいつも言葉が見つからないのだ。あの二人はまるで違っている。ブスケは落ち着いていてフランスの古典的な円熟に惹かれており、グノーは並外れてロマンチックで情熱的だ。
(1840年5月2日付、ファニーの日記)
~同上書P153

グノーは、才能豊かな反面、感情的にはとても不安定な人だったらしい。
しかし、彼の作品には、そういう要素が微塵も感じられない。

晩は会場が大広間に移され、演奏会が続けられた。シャルロッテ、ブスケ、そしてグノーがファニーを取り囲むようにすぐそばに陣取り、J.S.バッハのプレリュードやアダージョなどにじっくりと聴き入った。これはファニーにとって忘れることのできない1時間だった。晩餐後、バルコニーの外にはたくさんの蛍が飛び交い、満点の星空の下にローマの美しい夜景が広がっていた。それを眺める者たちの心の中には喜びと悲しみが交錯していた。
ファニーはローマを発つ前日の6月1日月曜日の日記の最後にこう記している。

私はどんな時間によっても色褪せることのない、永遠の、移り行かない映像を魂に刻み込んだ。おお神よ、あなたに感謝します。
~同上書P159

ローマで、永遠の映像を魂に刻み込んだのはファニーだけでない、おそらくシャルル・グノーも同様の体験をそのときそこでしたのだろうと思う。グノーの音楽は、彼自身の憧れの心象風景だ。それゆえに、明朗快活。ドイツ古典派の規範に則り、先達からの影響を受けながら、あくまで独自のフランス的センスを随所に醸す。確かに形はベートーヴェンのようであり、中身はメンデルスゾーンのようであるのだが。

グノー:
・交響曲第1番ニ長調(1854)
・交響曲第2番変ホ長調(1856)
ミシェル・プラッソン指揮トゥルーズ・キャピトール国立管弦楽団(1979.3.11, 12, 15&17録音)

第2番変ホ長調第1楽章アダージョ—アレグロ・アジタートに薫るベートーヴェンの第7交響曲の木霊。また、第2楽章ラルゲット(ノン・トロッポ)の、フェリックス・メンデルスゾーンの緩徐楽章に勝るとも劣らぬ旋律美。同様に、第3楽章スケルツォもまたメンデルスゾーンを髣髴とさせる。そして、終楽章アレグロ・レッジエーロ・アッサイには、ベートーヴェンの第4交響曲の木霊が潜む。
それにしてもプラッソンは、こういう隠れた佳曲の解釈が実にうまい。
何と言っても、心から音楽を感じ、また、作曲家への尊敬の念に満ちるのだ。

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