オランダ・フェスティヴァル50年のハイライト 偉大な歌手たち(1962-1977Live)

「歌曲とは歌う心である。」
だから歌曲をきき、歌曲について書くとは歌曲をきく心の働きを述べることが大切だ。ほかに書くことはないといってもいい。その歌曲を書いた人についての知識をふりまわしたり、作曲をめぐるあれこれの状況、事情について多言を弄するのは、本当なら、余計なことなのだ。
「心から出たものなのだから、そのまま、心に通じるように」とベートーヴェンも言ったではないか。
けれども、その心に通じたものを、そのまま、書くのは、やさしいようで、とてもむずかしい。シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフ、シュトラウス、マーラー、ベルクたちの数少くない歌曲の中に生きている「心」を書くに至っては、限りなく不可能に近い。

吉田秀和「永遠の故郷―夜」(集英社)P154-155

吉田秀和さんの、最晩年のこの言葉を読むにつけ、耳が痛い。僕などは、まさに余計な知識を振り回し、多言を弄し、記事を書き綴っているものだから。
何にせよ「心」を表現すること、文字にすることはとても難しい。

オランダ・フェスティヴァル50年のハイライト。
永遠に語り継がれるであろう歌手たちの、コンセルトヘボウほかでのリサイタルの記録。

偉大な歌手たち
・モーツァルト:
―「別れの歌」K.519
―「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」K.520
―「ラウラに寄せる夕べの思い」K.523
―「クローエに寄す」K.524
エリー・アメリンク(ソプラノ)
イェルク・デームス(ピアノ)(1969.6.28Live)
・ヴォルフ:
―女声のための6つの歌~第1曲「朝霧」
―女声のための6つの歌~第3曲「小鳥」
―女声のための6つの歌~第4曲「ねずみとりの呪文」
―ハイゼによるイタリア歌曲集第1部~第6曲「お前を呼んだのはだれか?」
―ハイゼによるイタリア歌曲集第1部~第8曲「さあ仲直りしよう」
―アイヒェンドルフ歌曲集~第7曲「ジプシーの少女」
エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
フェリックス・デ・ノーベル(ピアノ)(1962.6.29Live)
・グラナドス:
―昔風のスペインの歌曲集~第3曲「悲しむマハ」第1番
―昔風のスペインの歌曲集~第11曲「トラ・ラ・ラとギターのつまびき」
―昔風のスペインの歌曲集~第3曲「悲しむマハ」第3番
―昔風のスペインの歌曲集~第4曲「控えめなマホ」
ロドリーゴ:
―クリスマスの歌~第2曲「クリスマスの人形」
アルフテル:
―「ああ、とてもきれい」
テレサ・ベルガンサ(メゾソプラノ)
フェリックス・ラヴィラ(ピアノ)(1962.6.17Live)
・ドビュッシー:
―ステファヌ・マラルメの3つの詩
―フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード~第3曲「パリの女のバラード」
―「マンドリン」
ベルナルト・クルイセン(バリトン)
ハンス・ヘンケマンス(ピアノ)(1968.6.22Live)
・チャイコフスキー:
―6つの歌作品6~第1曲「信じるな、我が友よ」
―6つの歌作品38~第3曲「騒がしい舞踏会の中で」
・ムソルグスキー:
―「星よ、お前はどこに」作品4
・ストラヴィンスキー:
―歌劇「マヴラ」~「ロシアの娘の歌」
ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(ソプラノ)
タマーシュ・ヴァシャーリ(ピアノ)(1975.6.8Live)
・シベリウス:
―7つの歌作品17~第6曲「夕べに」
―6つの歌作品36~第4曲「そよげ葦」
―5つの歌作品38~第2曲「海辺のバルコニーで」
―6つの歌作品36~第1曲「黒いバラ」
トム・クラウゼ(バリトン)
アーヴィン・ゲイジ(ピアノ)(1977.6.12Live)
・ストラヴィンスキー:
―「プリバウトキ」(4つのロシア民謡)(1914)
・ユーゴスラビア民謡(ルチアーノ・ベリオ編曲)
・ブルガリア民謡
キャシー・バーベリアン(ソプラノ)
ジョージ・ピーターソン(クラリネット)
ルチアーノ・ベリオ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団員(1974.6.28Live)

シュヴァルツコップのリサイタルは、おそらくアンコールの諸曲だと思うのだが、観衆の歓呼がいちいち凄い。彼女の歌がどれほど人々の心を捉えることか、また、フーゴー・ヴォルフの歌の直接的な官能がいかに人々の魂を癒すか。殊に、アイヒェンドルフ歌曲集からの1曲の可憐さ、同時に聴衆の感動。
あるいは、クルイセンのドビュッシー「マラルメの詩」が人々に与える官能美。
出色は、ヴィシネフスカヤとヴァシャーリによるロシア歌曲リサイタル!!
そうして、ベルガンサによるスペイン歌曲のいろいろ。
すべてに「歌う心」に溢れる歌唱に、僕は思わず繰り返し聴いた。
人の心の美しさ。

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