
ドビュッシーほどの浮遊感はなく、サティのようなアンニュイさもない。
あるいは、ラヴェルのようなジャジーな雰囲気もあるようでない、不思議な音響を醸す中、何だかとても明朗で健やかな印象を受けるのがアルベール・ルーセル。
それはまるで夢の中にあるように思われる。
そして、妖精が踊る、何だかとても楽しそうに。
しかし、それは現実だ。
夢と現実の間を往来する魔法の如し。
わかった、全部あげよう。
だが、音楽は? 音楽を与えられるかどうか私にはわからない。
空で月が歌っている。
「カスタ・ディーヴァ」
私は唄を聴く。私は何ひとつ持っていない。私にはもう何もない。
私は生命さえも与えようと思う。しかし音楽は?
音楽なしで何をしたらいいだろう? イシスが私の腕の上に足を伸ばす。
そして、急に爪をむき出して私の皮膚をひっかき、筋肉の上に血の象形文字を書く。
~モーリス・ベジャール/前田允訳「舞踊のもう一つの唄」(新書館)P197
モーリス・ベジャールがイスラムの神秘思想に没頭していた時期に創造した「舞踊のもう一つの唄」という幻想小説がある。とりとめもない、空想的な描写に、僕はルーセルの音楽を思う。否、ルーセルの音楽にベジャールを思ったのか?
その昔、パトリック・ガロワのフルートに惚れ込んで、彼が来日するたびにリサイタルに出かけていた。1980年代のことだ。今では音盤でもほとんど聴かなくなったこの人の、当時の演奏が収められた録音を聴いて、優雅で高貴な音色に久しぶりに痺れた(あの頃もルーセルの音楽に感動した気がするけれど)。
しかし、最高というべきは、ヴィア・ノヴァ四重奏団による弦楽四重奏曲!!
ベラ・バルトークの空ろな空想にも似た第2楽章アダージョと、ドミトリー・ショスタコーヴィチの執拗さにも似た(踊る)終楽章アレグロ・モデラートが僕のツボ。