
何ともセンス満点で、しかもそこに知性が感じられるのだから大した女性だと思う。
ロンのピアノは繊細で優しい。しかし、そこには芯があり、信がある。彼女の演奏を聴いていると心が鎮まるのがわかる。
ショパンのピアノ協奏曲第2番ヘ短調は、彼の最初の大作だが、特に作曲当時恋をしていたコンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現したといわれる第2楽章ラルゲットが美しい。ロンのピアノもここぞとばかりに粘り、何とも切ない想いを響かせる。
これはぼくにとって不幸なことかも知れぬが、ぼくはすでに理想の女性があるのだ。まだ一言も話したことがないのだが、6か月ぼくは心のなかで忠実に仕えてきたのだ。彼女のことを夢み、彼女への想いでぼくの《コンチェルト》のアダージョを書いたのだ。また今朝彼女の霊感をえて、小さな《ワルツ》(作品70-3、変ニ長調)を書いたのだが、それを君に送る。
(1829年10月3日付、ティテウス・ヴォイチェホフスキ宛)
~アーサー・ヘドレイ著/小松雄一郎訳「ショパンの手紙」(白水社)P57
アンドレ・メサジェが補強した管弦楽版を使用しての録音は、もちろんクリュイタンスの名伴奏によって老大家のピアノの粋を一層強調する。ここには音楽への深い共感があり、また共鳴がある。終楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの嫋やかさ。
一方、フランソワを独奏ピアノに据えたプロコフィエフの協奏曲第3番も、都会的センスに溢れる、いかにも現代的な、喜びの解釈で実に素晴らしい。第2楽章アンダンティーノの安息から終楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポへの巧みで自然な移ろいと滲み出る幽玄な響き、また、どの瞬間にも薫る品の良い香気は、サンソン・フランソワならではだろう。何よりコーダに向かう推進力に余裕があり、慌てず騒がず、音楽を操る様が美しい。