モントゥーのシベリウス

確かにあるはずなのにいつだったか探しても見つからなかった音盤を偶然見つけた。朝から大粒の雪降る中、西八王子まで足を伸ばした。都心から1時間ほど電車に揺られると高層ビルとは無縁の郊外の「自然の美しさ」が堪能できる。3月というのにこういう雪模様がまた輪をかける。夕方戻る頃には霧のような雨に変わり、雨粒に反射した新宿の街並みもきらきらと鮮やかな光に化粧される。あ、シベリウスだと思った。

北欧の街には足を踏み入れたことがない。オーロラの風景、あるいは白夜・・・、興味をそそられる自然の大いなる力。いずれ旅してシベリウスやグリーグなど大作曲家の墓などを詣で、かの地の自然と芸術に触れてみたいと常々思う。久しぶりにシベリウスの、それも最も有名とされる第2交響曲をベルグルンドがヨーロッパ室内管といれた音盤で聴こうと棚を探ったら・・・、出てきた。

シベリウス:交響曲第2番ニ長調作品43
エルガー:エニグマ変奏曲作品36
ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団

今から50年前のレコーディング。僕が欲求していたシベリウスとはまったく違った解釈の、いかにも大時代的な印象を与える音楽だが、耳を澄ませば「大自然の音」がそこかしこに聴きとれ、シベリウスが望んでいた音はこういうものだったんじゃなかろうかと思える。ベルグルンドの新しい方の録音についてはもちろん好きだ。でも、このモントゥーの演奏に比較すると、都会的センスの少々洗練された、というよりいかにもソフィスティケートされ過ぎた音が気にならなくもない。人間臭い中に、自然が合わせて感じられ、そこが宇宙とつながってゆく・・・、それでいて美しく感動的。晩年のモントゥーはいかにも悟っているような・・・。

そうそう、エルガーの「エニグマ」を何日か立て続けに聴いていたときに、探していたんだった・・・。ようやく渇きが癒される。

「エニグマ」を聴く時、ご多分にもれず僕は第9変奏から耳にしてみる。次に最後の第14変奏。この2つを聴いてピンときたら名演だという確信。それでモントゥーのものはいずれも最高だったという記憶。間違いなかった。第9変奏の冒頭の撫でるような弱音から弦を主体としたクライマックスの響きもさることながら、フィナーレの金管の咆哮。決して下品にならない、英国王室の誇り高き薫りを残したロンドン響の響き。メンバー各々の大指揮者への尊敬の念と大作曲家への高貴な想いが見事に再現される。

あらためて名盤。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
私は、モントゥー指揮ロンドンSOによるブラームス:交響曲第2番の音盤
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3864970
を、私が所有するブラームスの全交響曲の音盤の中で、最も高く評価し愛しています。彼のベートーヴェンもラヴェルもチャイコフスキーも絶品だと思っていますし、彼が指揮するセッション及びライヴ録音の9割くらいは所有しているはずで、シベリウスの2番の録音も好きですが、何故か「エニグマ」の録音だけは未聴です。でも、素晴らしいのは容易に想像できます。

それにしても、モントゥー(Pierre Monteux, 1875年4月4日 – 1964年7月1日)の指揮者としての経歴は、大作曲家との交流という意味で、フルトヴェングラーやカラヤンよりもずっと華々しいんじゃないでしょうか?

・・・・・・パリ音楽院でヴァイオリンを学び、在学中から指揮活動をしていたという。パリ音楽院卒業後はパリ・オペラ=コミック座(ここではドビュッシーの歌劇『ペレアスとメリザンド』の初演にも楽員として立ち会っている)やコロンヌ管弦楽団の楽員だったが、1906年にコロンヌ管を指揮してデビューを飾る。1911年からはディアギレフのロシア・バレエ団で指揮を担当、ストラヴィンスキーの『春の祭典』、『ペトルーシュカ』、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』、ドビュッシーの『遊戯』など、20世紀の名作バレエ音楽の初演を多く振った。

ロシア・バレエ団の指揮者就任と同じ年、自らコンセール・ベルリオーズを設立している。

第一次世界大戦中はモントゥーも兵役に服し、除隊後の1916年、アメリカに渡り、翌年からはメトロポリタン歌劇場の指揮者に就任、主としてフランス系のレパートリーを多く指揮したが、リムスキー=コルサコフの『金鶏』のアメリカ初演も振っている。

戦後はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、ボストン交響楽団(1919年から1924年まで音楽監督)の指揮者を歴任、その後、1929年にはパリ交響楽団の創立時の常任指揮者を務め、パリ響常任時代にはプロコフィエフの第3交響曲の世界初演を手がけている。

1935年からはサンフランシスコ交響楽団の常任となり、同楽団の黄金時代を築いた。1953年に退任、フリーとなり、客演活動が中心となる。1961年にはロンドン交響楽団の首席指揮者となり、死去するまでその地位にあった。1963年に来日している。

古典から近代音楽まで幅広いレパートリーを誇り、力強く豊かな音楽で世界中のファンに愛された。レコーディングも数多く残されている。またモントゥーはフランス人でありながら、ブラームスを最も敬愛しており、ブラームス本人の前で演奏をしたこともあるほか、常々自分がブラームスに対して失礼な演奏をしているのではないかと口にしていたという。ロンドン交響楽団との交響曲第2番などの名録音を残しているほか、ベートーヴェンなど、他のドイツ音楽にも多くの名演奏を残している。ベルギー人のクリュイタンス、ドイツ系アルザス人のミュンシュらと異なり、ユダヤ系とはいえ、ほぼ生粋のパリジャンの指揮者としてはかなりの異例に属する。

この世代の指揮者としては珍しいことだが、モントゥーは後進の指導にも積極的で、1943年からアメリカのメイン州ハンコック(モントゥーはこの地に居を構えており、1946年にはアメリカの市民権を取得している)で指揮講座を開講している。そこで彼の指導を仰いだとされる指揮者の名をあげると、ネヴィル・マリナー、アンドレ・プレヴィン、デイヴィッド・ジンマンなどが知られている。・・・・・・(ウィキペディアより)

あの、ストラヴィンスキーの『春の祭典』、『ペトルーシュカ』、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』、ドビュッシーの『遊戯』などの初演を振ったという事実だけでも充分「神」なのに、ブラームス本人の前で演奏をしたことまであるとは!!(笑)

もう1枚、密かな愛聴盤を・・・。
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 シェリング(vn)モントゥー&LSO
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1829421
シェリングのヴァイオリン共々、このブラームスも、誰が何と言おうと「神」。
「ブラームスに対して失礼な演奏をしているのではないか」というモントゥーの心がじつに尊い。

私にブラームスを「神」と呼ばせる指揮者は、モントゥーを措いて他にいません!(爆)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
そうでしたか!雅之さんは「モントゥー命!」なんですね(笑)。ご紹介のブラームスの2番、僕も愛聴盤です。
しかしながら、シェリングとのコンチェルトの方は未聴です。それにしてもセッション、ライブ含めてほぼ9割をお持ちとは!!いわゆる名盤といわれているものしか聴いていないので、モントゥーについては今後ともいろいろとご教示よろしくお願いします。

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