戦争と平和

外は雨。
よって5月だけれど結構肌寒い。明日からゴールデンウィークの後半だが、いよいよ「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」の開幕。本当は一日中会場を練り歩きながらロシアン・ミュージックを思う存分堪能したいというところだったが、思いの外人気の公演が多くてチケットがとれなかった。ロシアものがそれほどのポピュラリティーを獲得するとは思えないのだが、先年の突然のドストエフスキー・ブームをはじめとして予想以上にあの暗く郷愁感漂う「美」を好む人々が日本には多いということなのだろうか。
予習として亀山郁夫氏が上梓された「チャイコフスキーがなぜか好き」を読み、早々とその気分に浸ろうと「ロシアン・リズム」と題する2009年のベルリン・フィルのヴァルトビューネ・コンサートの映像を観る。

夕暮れ時にコンサートがスタートし、プログラムが進行するにつれ少しずつ周囲が薄暗くなってゆく様が幻想的。最後の「春の祭典」の時点では完全に日没し、しかも雨が降るという状況になる。それでも観客は、最後部の座席からはほとんどお米粒のようにしか見えないだろう楽団員を、傘を差し、息を凝らし見つめながら音楽に耽る。

まるで野外ロックコンサートのようなリラックスしたムードと、そこで奏でられるロシア音楽の重みとノスタルジーとのギャップ。

・チャイコフスキー:「くるみ割り人形」作品71~序曲、クリスマス・ツリー、行進曲
・ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30
・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
アンコール~
・チャイコフスキー:「くるみ割り人形」作品71~パ・ド・ドゥ
・パウル・リンケ:ベルリンの空気行進曲
イェフィム・ブロンフマン(ピアノ)
サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2009.6.21Live)

PAを入れてのクラシック・コンサートは、ピクニック気分で音楽を愉しめるという良さはあるものの、直接的に響かない音にストレスが感じられ、まったくおすすめできないものとの烙印を押していたが、こうやって映像でじっくり確認してみるとこういうのも意外にありだと思えるから面白いものだ。自然と音とが一体になる、その媒介として人がいる、そんなことが目の当たりにできる瞬間が頻出する。
ブロンフマンのラフマニノフは超絶的だ。もちろんラトルの「ハルサイ」も見事という言葉に尽きる。
それより何より、アンコールの「くるみ割り」のパ・ド・ドゥ!!聴衆が線香花火を片手に酔い痴れる姿が映し出されるが、こういう幸せの時を演出できる音楽の素晴らしさを再確認する。最後は、おそらくウィーンに対抗してのリンケのオペレッタ「ルーナ夫人」からの行進曲。観客の反応からこれはもうドイツではお決まりのアンコールなのだろう。それまでのロシア音楽とは異質の、この陽気さ、この愉悦感(この音楽だけがやっぱり妙に浮いているところが可笑しい)。

60数年前はドイツとソビエトは交戦状態にあったんだと思うととても不思議な気持ちになる。人類皆兄弟というけれど、ベートーヴェンは一つになろうと呼びかけたけれど、やっぱり土地や文化が違えばそこから出てくるものは自ずと違う。
戦争と平和というのは結局表裏一体なのだろうな・・・。


7 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ベルリン・フィルのヴァルトビューネ・コンサートの映像、私はかなり前から大好きです。
ご紹介のラトルのBD、未聴ですが魅力的ですねぇ。ほんと、CDやDVD蒐集なんてアホらしく、これからは音質・画質両面で圧倒的に有利なBD蒐集に集中するべきだと心底思います。

そもそもヴァルトビューネ・コンサートの映像の魅力に私がハマったのは、1992年のプレートル指揮のフレンチ・ナイト
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8D1992-%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%BB%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88-DVD-%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3/dp/B0001Z2ZL6
のLDがきっかけで、フライシャーのピアノによるラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」など、クレーン・カメラを駆使した奏者のアップの映像(手元に現物は無いが、 映像監督:ブライアン・ ラージだったと思う)も凄い迫力で、総合的にフランソワ&クリュイタンスに匹敵する名演だと思いましたし、「牧神の午後への前奏曲」 「ボレロ」などの他の曲の演奏&映像も、筆舌に尽くせない魅力に溢れていました。

ヴァルトビューネ2003  盲目のジャズピアニスト、マーカス・ロバーツと、彼が率いるトリオがゲストの、小澤征爾指揮 ガーシュイン・ナイト
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8D2003-%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88-%E5%B0%8F%E6%BE%A4%E5%BE%81%E7%88%BE-DVD-%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB/dp/B0018OQDQW/ref=pd_sim_sbs_d_5
も、必聴・必見の名盤だと信じており、「ラプソディ・イン・ブルー」など、クラシックではなくて完全にジャズになりきっており、まさに「こう来なくっちゃ!!」という、この曲最高の演奏のひとつになっています(原曲に忠実かどうかなんて、いかにバカげた論議かと痛感します)。

なお、ロシアン・ナイトは小澤も1993年にやっており、その時の曲目は、
1. 序曲「ロシアの復活祭」op.36 2. 「くるみ割り人形」組曲op.71 3. 歌劇「イーゴリ公」~ダッタン人の踊り 4. バレエ音楽「火の鳥」~カスチェイ王の凶暴な踊り 5. 祝典序曲「1812年」op.49 6. バレエ音楽「ガイーヌ」~「剣の舞」 7. 弦楽セレナード ハ長調op.48~ワルツ
8. ラデッキー行進曲op.228 9. ベルリンの風 で、そのDVDも持っており、これも大変に気に入っています。

>戦争と平和というのは結局表裏一体なのだろうな・・・。

マニアの世界は「火薬庫」です。みんなイスラム並み「原理主義者」なので危険極まりないです。
地雷や自爆テロもあります(爆)。
岡本さんと私も目下激しい交戦状態で、少なくとも今世紀中の和平は到底期待できません(自爆)。

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャパン」や「ヴァルトビューネ・コンサート」ぐらいは、一時停戦協定に合意し、肩肘張らずに楽しみたいものです(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>CDやDVD蒐集なんてアホらしく、これからは音質・画質両面で圧倒的に有利なBD蒐集に集中するべきだと心底思います。

おっしゃるとおりですね。ここのところ僕の興味はもっぱらBDです。
以前から雅之さんはおっしゃられていましたが、この情報量に慣れると他が受け付けなくなります。
ご紹介の2つの盤は未聴ですが、興味深いです。
小澤のガーシュウィン・ナイトなんて面白そうですね。観てみたいです。
昨日、たまたま渋谷のタワレコに寄った時、小澤が病気になる前のベルリン・フィルとの「悲愴」が流れており、わずか2,3年に過ぎないのですが、当時は元気で勢いもありましたね。また復活して、より深みのある演奏を聴かせてもらいたいものです。

>岡本さんと私も目下激しい交戦状態で、少なくとも今世紀中の和平は到底期待できません

あ、はい。原因は何でしたっけ?(笑)

返信する
雅之

>どちらも「過激派」

これを民族対立の縮図と考えれば、非常に理解しやすいのでは?(笑)

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>これを民族対立の縮図と考えれば、非常に理解しやすいのでは?

ということは、戦争も意図する何かがある必然ということですね?!(笑)

返信する

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