追悼・宇宿允人

宇宿允人さんが亡くなられたようだ。以前から知る人ぞ知るその名前を存じ上げていたものの実演に初めて触れたのは4年前。ベートーヴェンの「田園」交響曲をメインにした池袋芸術劇場での一夜だったが、予想だにしなかったその解釈の深遠さに打ちのめされ、以後1年半の間は毎回通うにようになった。演奏終了後のウィットに富んだトークは、音楽のことだけでなく人生とは、あるいは人間とはについていろいろと考えさせられる内容であったことが今となっては懐かしい。
音盤を所有していないので、追悼の意を込めて彼の音楽にあらためて浸ることができないことが真に残念なのだが、何度か体験させていただいた至高の「宇宿允人の世界」体験を脳裏に飛来させつつ、もはや二度と味わえない変人(?)指揮者を偲びたいと思う。

ちなみに、僕の中での「田園」交響曲に関する衝撃ベスト3は、初めてフルトヴェングラーのEMIスタジオ録音を一にして、その二が朝比奈隆指揮する新日本フィルとの89年のツィクルス・ライヴ、その三が2007年の「宇宿允人の世界」の超絶演奏であるが、ここにもうひとつ同じく東京芸術劇場での実に貴重で輝かしい記録が残されていることを思い出した。

ベートーヴェン:
・交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
・交響曲第2番ニ長調作品36
モーツァルトの子守唄(フリース、佐々木具編曲)
宇野功芳指揮新星日本交響楽団(1995.10.5Live)

仕事の関係でどうしても行けなかった痛恨のコンサートの記録。ブルックナーの第8交響曲同様、あくまで正統路線で成し遂げた名演奏。音盤が初リリースされ聴いた時に本当に後悔の念が溢れ出てきた・・・。

過去の巨匠の解釈を採り込んだ二番煎じという見方もあろうが、実に有機的でひとつひとつの音に意味を見いだせる、ともかく温かい演奏。終楽章コーダのベートーヴェンの「祈り」がこれほどまでに直接的に響くことはなかなかない(怒られそうだが、実演体験のないベーム&ウィーン・フィルと同等。ここでやっと宇野節炸裂!!)。宇宿さんの時もそうだったが、涙が出そうなほど・・・。未聴の方は先入観を捨てて傾聴すべし。

ところで、例によってタグラグビー。少しずつ身体が慣れてきたせいで調子が良い。お陰で一方、自身の動きの問題点も自覚できる。ディフェンスの際の冷静さを欠くところがまだまだ。学ぶことは多い。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
宇宿允人先生といえば、母校の学生オーケストラで、1975年6月(曲目:フランク 交響曲ニ短調 ヘンデル 水上の音楽 ベートーヴェン 「エグモント」序曲)と、 1978年6月(独奏:笠間春子 曲目:ブラームス 交響曲第4番 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第一幕への前奏曲)に、2回指揮していただいたことがあり、私はその時代は当然入学前で、先生の指揮は未体験だったのですが、オケの先輩から、いろいろな先生の練習等にまつわる逸話を聞いたものです。なお、この2回の演奏会の貴重な録音は現存しているはずです。

その後も先生の実演には一切接したことがなく、ベートーヴェンなどのライヴのDVD、CDを数枚所有し鑑賞したことがあるだけなのですが、録音だけでは絶対に語れない指揮者の典型だとは理解しています。
だからといって、先生の追悼の日に、宇野功芳先生のCDで代用して偲ぶというのもちょっとなんだなあ。宇宿允人は宇宿允人。宇野功芳は宇野功芳。名前は似ているけど、たぶん別人だと、ド素人の私は想像します。

お薦めしたいDVD
宇宿允人の世界 待望のライブ映像!2005
第158回「宇宿允人の世界」2005年8月8日東京芸術劇場大ホール
第159回「宇宿允人の世界」2005年12月1日(同ホール)
指揮:宇宿允人 管弦楽:フロイデフィルハーモニー
http://www.amazon.co.jp/%E5%AE%87%E5%AE%BF%E5%85%81%E4%BA%BA%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C-%E5%BE%85%E6%9C%9B%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E6%98%A0%E5%83%8F-2005-DVD-%E5%AE%87%E5%AE%BF%E5%85%81%E4%BA%BA/dp/B000FJGZQO/ref=pd_sim_d_2

http://www.youtube.com/watch?v=pZETc2uprBY

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
雅之さんは宇宿さんとも縁があるのですね。

>オケの先輩から、いろいろな先生の練習等にまつわる逸話を聞いたものです。
こういう貴重な話はぜひとも聴いてみたいところです。

>宇野功芳先生のCDで代用して偲ぶというのもちょっとなんだなあ。
おっしゃるとおりです。邪道です・・・。
全く異質の音楽であるにもかかわらず、最初に接した時の衝撃という意味では「同じもの」を感じたので、何となく聴いてみたのです。失礼しました。

いずれにせよもはやあの実演には触れ得ないのかと思うと寂しい限りです。
少しCDやDVDを仕入れて、もう一度真面目に聴き込みたいなと思います。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む