バレンボイム モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番K.330ほか(1984.12録音)

思うに、どんなプロセスにも、それが文化的なものであれ、政治的なものであれ、その内容と、それが要求する時間とのあいだに、絶対的に定まった関係がある。そして、ある種のものは、時間をじゅうぶんに与えなかったり、与えすぎたりすると、消え失せてしまう。
アラ・グゼリミアン編/中野真紀子訳「バレンボイム/サイード『音楽と社会』」(みすず書房)P79

サイードとの対話の中でバレンボイムはそう語る。
人類の遺産たる音楽の普遍性も同じく要求された時間に正しく対応できる内容と形式を持っていることに由来するのだろうと思う。

録音からすでに40年近くが経過する。今もって瑞々しいモーツァルト。
若き日の弾き振りの協奏曲群が素晴らしい。それ以上に、バレンボイムの弾くモーツァルトのソナタは、吉田秀和さんが言うように「ギーゼキング以来のモーツァルト」だろう。喜びと悲しみとをあわせ持つ人類の至宝である。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第9番ニ長調K.311(284c)
・ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調K.332(300k)
・ピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330(300h)
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)(1984.12.20-23録音)

青年モーツァルト(22歳)の瑞々しい感性ほとばしる傑作たちをバレンボイムはいとも容易く何と自然体で奏するのか。母の死を乗り越えたモーツァルトの慈愛溢れる名演奏。

今度のお手紙を拝見し、嬉し涙をさそわれました。お手紙でお父さまの真の愛情とお心遣いを、ますます心から信じるようになったからです。ぼくはその愛情にそぐうように、さらに一所懸命つとめます。
(1778年7月31日付、在ザルツブルクの父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(上)」(岩波文庫)P173

明朗で溌溂たる第1楽章アレグロ・モデラートと歓びに弾ける終楽章アレグレットに挟まれたソナタ第10番ハ長調K.330、嘆きの第2楽章アンダンテ・カンタービレのあまりの美しさ。

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