阿吽の呼吸

音楽を聴くことは真に面白い。毎日のように音盤を採り上げながら記事を書くことが習慣化しほぼまる4年が経過する。300年前の音楽を聴いたかと思えば、100年前の音楽を享受し、さらにはつい数年前に出来上ったばかりの「音」を耳にすると、作風は様々なれど根底に流れるモノはどれもほぼ同じだということがよくわかる。もちろん好き嫌いはある。偏りもあるかもしれない。時代を追うごとに複雑になってゆく「形式」を尻目に、作曲家が伝えたいことの本質は実はひとつなのではないか。「音」が「音楽」になるには自然と一体にならねばならない。そこには音程があり、リズムがあり、そして呼吸がある。

ひとつ気がついたこと。僕の場合、呼吸の深い演奏が断然好きだということ。どの時代のどんな音楽についても泰然自若とした悠久の流れに身を任せると心が落ち着く。こういう恍惚感はクナッパーツブッシュのワーグナー演奏に最も親近性を覚えるが、バウムガルトナーの演奏するバロックものにも似たような感覚をもつのは僕だけだろうか。

ヴィヴァルディ:協奏曲集「調和の霊感」作品3より
ヨゼフ・スーク(ヴァイオリン)
グナール・ラルセンス(第2ソロ・ヴァイオリン)
ルドルフ・バウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団(1976.9.16-19録音)

ちょうど300年前にアムステルダムのル・セーヌ社から出版された「調和の霊感」。ヴィヴァルディを勉強するのに演奏者が誰かというのはとても重要なように思う。少なくとも作曲者の「心」に共感し、奏していないと「伝わらない」。そのことは、特に緩徐楽章に表れる。

スークのヴァイオリンはここでもひと際愛に満ちている。いろいろ言葉を探してみたが、「愛に満ちる」という表現がぴったり。しかも、トリオの時より何だか自由に飛び跳ねているように感じる。まさに「調和の霊感」を得たか如くの不滅の名演奏。

先日も齋藤孝氏による「呼吸入門」について触れたが、これは呼吸の重要性について実に直截明快に書かれた良書だと思う。音楽、美術、文学、どの芸術にも「呼吸」が宿り、その深度が高いものほどより一層人の心に響く。「阿吽の呼吸」というが、人間関係、ビジネスにおいてもそれは大事。

なるほどそうか。スークとバウムガルトナーによるこの演奏の真髄は「阿吽の呼吸」にあるのかも・・・。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
バウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団&スークに、ヴィヴァルディの大傑作「調和の霊感」の録音があったことは、初めて知りました。この組合せは、バッハ「ブランデンブルク協奏曲」の名盤から考えても素晴らしそうなので、聴いてみたいです。バウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団ではヘンデル「水上の音楽」の録音なども、金管の響きなども最高に魅力的で、幸せな気持ちになれて昔から大好きでした。

>呼吸の深い演奏
同じスイスの演奏家でも、バウムガルトナーの出身地チューリッヒも、ルツェルンという町も、スイス・ロマンド(フランス語圏)ではなく、ドイツ語圏であるということも影響しているんでしょうか。たしかに、彼らの演奏は、スイスの演奏家という言葉のイメージでは括れない独特の深みを感じますよね。
スークは、どちらかというと呼吸の深さというよりは、清楚な美音が武器のヴァイオリニストですが、バウムガルトナー&ルツェルンとは、「ブランデンブルク」でも、不思議なくらい生き生きとしていて相性がいいですよね。

バウムガルトナー指揮ルツェルン&スークのバロック音楽の対抗盤として、同じラ・ショードフォンでの録音で勝負!!

ヴィヴァルディ:協奏曲集《四季》
グリュミオー(ヴァイオリン) ゲレッツ指揮, ソリスト・ロマンド (1978年録音)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3-%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E9%9B%86%E3%80%8A%E5%9B%9B%E5%AD%A3-%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%9F%E3%82%AA%E3%83%BC-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/B00005FFMW/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1303165930&sr=1-1

バッハ:
1. ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV1041
2. ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042
3. 2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043※
グリュミオー ※クレバース(ヴァイオリン) クレバース ゲレッツ指揮, ソリスト・ロマンド (1978年録音)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F-%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1-%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%9F%E3%82%AA%E3%83%BC-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/B00005FFMX/ref=sr_1_11?s=music&ie=UTF8&qid=1303166239&sr=1-11

こちらは、ドイツ語圏ではなく、スイス・フランス語圏の合奏団とベルギーの名ヴァイオリニストによる、とても美しいバロック演奏。

呼吸の深さによる恍惚感 VS 究極のエレガント
スークとグリュミオーによる、夢の美音対決の行方は?(笑)

なお、バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲で第2ヴァイオリンを弾くクレバースは、
当時アムステルダム・コンセルトヘボウのコンマス、
同時期録音のコンドラシン指揮「シェエラザード」名盤でも、抜群の技量と魅惑のソロを聴かせた名手です。ここでも見事です。

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雅之

※訂正
バッハ:
1. ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV1041
2. ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042
3. 2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043※
グリュミオー ※クレバース(ヴァイオリン) ゲレッツ指揮, ソリスト・ロマンド (1978年録音)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>バウムガルトナーの出身地チューリッヒも、ルツェルンという町も、スイス・ロマンド(フランス語圏)ではなく、ドイツ語圏であるということも影響しているんでしょうか。

土地ってありますよね、やっぱり。特にスイスは多様な文化圏に包まれているので、十把一絡にはできない場所だと思います。

ご紹介のグリュミオーの2枚、残念ながら未聴です。対抗盤として挙げていただいているのでこれは何としても聴かなきゃですね。ありがとうございます。

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