偉大なる指揮者たち

何年か前、平林直哉氏編集の「クラシックプレス」を愛読していたが、あれも何だかあっという間に廃刊になってしまった。「グラモフォン・ジャパン」もほんの2,3年で潰れたことを考えると、特に日本国内ではクラシック音楽業界自体がすごく古い体質なのだろうか、新しいことにチャレンジする姿勢を忘れてしまっているようで、マンネリ化する雑誌媒体が幅を利かしていていることと合わせて残念でならない(まだまだインターネットなど夢の夢であった30年前は、「レコード芸術」や「音楽現代」の発売が本当に待ち遠しかった。そして、発売と同時に購入しては隅から隅まで目を通した。もちろん、まだ若い頃で、知識も今ほど厚くなかったということもあろうが、それにしてもあの頃のクラシック音楽雑誌は熱かった)。

どんなものでも売れなければなくなる運命であることは承知だが、良質なものに限ってそういう道を辿ってしまうのには本当に胸が痛む。前述の「クラシックプレス」でも、時にかつてのSP録音を復刻したCDが付録としてつけられていたり(これらの音盤がまた良質で、大昔の演奏がとてもリアルな音で蘇っているケースが多く、感動させられた)、他では読むことのできない記事(そういえば宇野功芳氏がクナッパーツブッシュの録音評を連載しておられたが、その後あの企画はどうなったのだろう・・・笑)が採り上げられていたり、マニアの心をくすぐる玉手箱のような趣があったし・・・。

クラシックプレス創刊2周年特別付録
偉大なる指揮者たち1924-1949
・グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮オデオン大交響楽団(1933.4.11)
・ベルリオーズ:幻想交響曲より第2楽章「舞踏会」
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮ソビエト国立交響楽団(1949)
・モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲
ジョージ・セル指揮大交響楽団
・モーツァルト(ヘルベック編):トルコ行進曲
カール・アルヴィン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1929.9.9)
・シベリウス:フィンランディア
ヘルマン・アーベントロート指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(1936.10.2)
・ヨハン・シュトラウス:喜歌劇「こうもり」序曲
ブルーノ・ワルター指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(1929.1.10,11)
・ドヴォルザーク:ユモレスク
ヴァーツラフ・スメターチェク指揮FOK交響楽団(1941.10.29)
・メンデルスゾーン:「フィンガルの洞窟」序曲
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1930)
・ベートーヴェン:「コリオラン」序曲
カール・シューリヒト指揮ベルリン市立管弦楽団(1942.6)
・マーラー:交響曲第5番よりアダージェット
ヴィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1926.5)

実家から久しぶりに電話が入り、蒸し暑い東京と違い、高原は寒いくらいなのだと。こちらはともかく節電、節電・・・。温度は28度に設定し、クーラーをつけては消し、消してはつけの繰り返し。僕にはもちろん経験がないが、電気を使わない手回し蓄音機などでクラシックのこれらの小品にゆっくりと時間を忘れて浸るというのも粋なものかも。

ちなみに、この復刻がまた素晴らしい(選曲といい、復刻技術といい)。CDゆえ残念ながら電気は食うが、音楽の向こうから聞こえてくる針音と合わせて気持ちだけでも節電気分(笑)。アーベントロートの「シベリウス」などまるでベートーヴェンの大交響曲。ワルターの「こうもり」も晩年の演奏からは想像もつかない若々しいアグレッシブなもの。フルトヴェングラーの「フィンガル」の哲学的深さ!!そして何より、スメターチェクの「ユモレスク」とメンゲルベルクの「アダージェット」!!!(当時の録音の現場では、SPの盤面が変わる度に演奏をストップしていたようだから、演奏する側の立場からすると緊張感やそれこそ「間」、「呼吸」が乱れてもおかしくないと思うのだが、そんな事情を超えてまるで人間的!)


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
平林直哉氏編集の「クラシックプレス」の件など、すべて同感です。誌面や、ご紹介の特別付録盤の充実ぶりは素晴らしい限りでしたよね。早い廃刊は本当に残念でした。

>どんなものでも売れなければなくなる運命であることは承知だが、良質なものに限ってそういう道を辿ってしまうのには本当に胸が痛む。

おっしゃるとおりだと思います。

今朝は予定があり、バタバタしていて、あと10分後に外出しなければなりませんので、先日読んでハッとした吉田秀和氏の言葉を・・・。

「中也もトーマス・マンも、音楽の勉強をどうやってやったかなんて僕は知らない。だけど、本当に誰よりも音楽を知っていた」

「自分を消し、対象を客観的に書くのも大切だけど、好き嫌いを含め、『己』と音楽を大胆に結びつける評論がもっとあっていいんじゃないかな」

「僕自身が音楽と関わって、どんな人生を生きてきたか。それを書くことで、芸術というものと僕たちが生きるということはつながっている、と伝えたかった」

「音楽評論の世界に、若い優秀な人がたくさん育ってきて、うれしい。でも、もっと音楽と自分を連ね、演奏家のいいところをみつけて、色々な人を音楽に近づけてあげてほしいなあ。クラシックは特別なものじゃない。かつて母親と一緒に歌ったような、日々の暮らしのなかに息づくものなんだ、と」

2011年1月17日付asahi.com記事
〈97歳、音楽批評への挑戦 吉田秀和さん「永遠の故郷」完結〉 より
http://book.asahi.com/news/TKY201101170092.html
最新の「音楽展望」(当地では6月28日付)もそうですが、このところの氏の言葉、以前にも増して冴えまくっています。

吉田氏が言う、「好き嫌いを含め、『己』と音楽を大胆に結びつける評論」「音楽と自分を連ね、演奏家のいいところをみつけて、色々な人を音楽に近づけ(る)」、それをしっかりと実践している数少ない現役評論家のひとりが平林氏だと感じています。私も、そういう人の評論を渇望しています。

※私のお薦め盤
ブルックナー 交響曲第5番 クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィル(平林直哉復刻)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3817189

平林氏によるクナやワルターなどのオープンリールテープからの復刻が、またいいいんですよ!!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
朝の忙しい時間に恐縮です。

>最新の「音楽展望」(当地では6月28日付)もそうですが、このところの氏の言葉、以前にも増して冴えまくっています。

おっしゃるとおりですね。ご紹介いただいた記事もそうですし、「レコ芸」の最新号も氏の特集を扱っており、貴重な言葉が数多くあります。

>それをしっかりと実践している数少ない現役評論家のひとりが平林氏だと感じています。

同感です。平林氏はかつての名録音を復刻し、グランドスラム・レーベルでいろいろと発表されていますが、そのほとんどはきちんと聴いておりません。ご紹介のクナのブル5良さそうですね!!

返信する
畑山千恵子

以前、「音楽の世界」という雑誌に演奏会評などを執筆していました。今、どこにも執筆していません。「クラシックジャーナル」という雑誌も注目されていましたものの、今、以前ほどの勢いはありません。編集のトップの人間性もあるようです。岡本さんは「クラシックジャーナル」をお読みになったことはありますか。ありましたら、いろいろお聞かせいただけますか。お待ちしています。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
こんにちは。
「クラシックジャーナル」については、時折興味がある記事のときに立ち読みをする程度であまり詳しくありません。
特に最近は注意して読んでいなかったのでコメントは難しいですね。
少し注意してみてみるようにします。ありがとうございます。

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