トスカニーニ指揮NBC響 ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から第3幕「イゾルデの愛の死」(1942.3.19録音)ほか

ボルガッティは回復し、《トリスタン》は(1900年)12月29日に開演した。24歳のアメーリア・ピントがイゾルデ役だった。第1幕の最後に、「聴衆は幕が降りるのを待たず、とてつもない、猛烈な拍手を始めた」と、「ラ・ペルセヴァランツァ」紙の批評家は書いた。「演者達は、喧噪たる歓声で2回迎えられ、それは、彼らと共にトスカニーニが幕の前に現れた時、祝勝の大喝采を伴ってさらに3回繰り返された。スカラ座の聴衆が一つの制作にそのような名誉を与えることは稀になっていた」。最後に、トスカニーニが「幕の前に繰り返し呼び出された」。批評家の幾人かは、そのオペラが長く冗長に過ぎると思ったが、上演については何の不安もなかった。「マエストロ トスカニーニは、奏者達を素晴らしい推進力と正確さで押し勧めた」と、「イル・ソーレ」紙の批評家は述べた。「あらゆる点で、それは我々の最も偉大な劇場の大きな名誉となる制作である」。
ハーヴィー・サックス/神澤俊介訳「トスカニーニ 良心の音楽家(上)」(アルファベータブックス)P179

トスカニーニによるワーグナーの楽劇全曲の録音は遺されていないのだろうか。
(勉強不足で知らない)
(ミラノの聴衆を惹きつけた)楽劇「トリスタンとイゾルデ」などはマーラー曰く大変な名演奏を繰り広げたということだから聴いてみたいところだ。
ブルーノ・ワルターの回想には次のようにある。

同じ年の冬、私は招かれるままにミラノのスカラ座オーケストラの演奏会をひき受け、その機会にはじめてアルトゥーロ・トスカニーニに会うという喜びを味わった。親切にも、私に挨拶するために、練習のひとつがすんだとき舞台にあがって来たのである。彼についてはすでに多くのことを聞いていた。最初に聞いたのはマーラーからであって、彼は1908年にトスカニーニの『トリスタン』を聴いた話をしてから、こうつけ加えたのであった、「彼はわれわれとはまったく違ったやり方でこの曲を指揮したが、しかし彼なりにりっぱだった。」
ミラノにおける彼の活動についてはずいぶん聞かされていたが、自分で彼の演奏を聴く機会はそれまでまだいち度もなかった。しかしこれで少なくとも個人的な知りあいにはなったわけで、会った時間こそ僅かだったけれども、この出会いはのちのちまでも消えぬ、深く食いいるような力を私に及ぼした。《魔王ルチフェル》、これが最初の印象であった。

内垣啓一・渡辺健訳「主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録」(白水社)P372

この記述に関しては1926年のことだからちょうど1世紀前のことだ。
特にスカラ座時代のトスカニーニはさぞかし輝いていたことだろうと想像する。
独墺系指揮者とは異なる方法で演った「トリスタン」とは果たしてどんなものだったのだろう。
(マリアーノ・フォルトゥーニの舞台美術がとにかく画期的で素晴らしかったそうだ)
後年に録音されたNBC交響楽団との抜粋を聴きながら夢想するのも楽しいことだ。

ワーグナー:
・歌劇「タンホイザー」序曲とバッカナール(ヴェーヌスベルクの音楽)(1952.11.8録音)
・歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲(1941.3.17&5.6録音)
・楽劇「トリスタンとイゾルデ」からイゾルデの愛の死(1942.3.19録音)
・楽劇「ワルキューレ」からワルキューレの騎行(1946.3.11録音)
・楽劇「神々の黄昏」から
 序幕「夜明けとジークフリートのラインへの旅」(1949.12.22録音)
 第3幕「ジークフリートの死と葬送行進曲」(1952.1.3録音)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

このアルバムにおいては、楽劇「神々の黄昏」からの抜粋が猛烈な勢いと推進力を誇っており、いかにトスカニーニの内なる熱狂が凄いものだったかが垣間見え、興味深い。

そしてもちろん終曲だけだが「トリスタン」の白熱した演奏が聴けるのも素敵だ。

上記、ミラノでの公演の後、それを聴いたジークフリート・ワーグナーが絶賛し、コジマに報告している。そして、コジマはトスカニーニに宛て、喜びの手紙を認めるのである。

私の息子は、ミラノで出席した《トリスタン》の上演を私に説明してくれました。そして、彼はそれについて多くの良いことを語ったので、私は、大変難しい作品が外国の舞台で注意して上演されたことを知って、私が感じる満足を貴方に言い表す義務を果たしております。
私の息子は、貴方がオーケストラの準備にもたらした注意深い情熱と、その情熱と指揮者としての貴方の能力を通じて得られた素晴らしい結果を強調しています。彼はまた、歌手たちがその役を完全に掌握し、それを思いやりと情熱をもって果たしていたと、私に語っています。

(1901年1月18日付、コジマ・ワーグナーからアルトゥーロ・トスカニーニ宛)
ハーヴィー・サックス/神澤俊介訳「トスカニーニ 良心の音楽家(上)」(アルファベータブックス)P181

生と死が一体になった、官能の「イゾルデの愛の死」に、トスカニーニの管弦楽の壮絶な力を思う。

トローベル メルヒオール トスカニーニ指揮NBC響 ワーグナー 楽劇「ワルキューレ」第1幕第3場(1941.2.22録音)ほか

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