家路

日本ではいわゆる「家路」という標題で有名なドヴォルザークの「新世界」交響曲第2楽章。もはや日常ではわざわざ音盤を取り出して聴くことはなくなった音楽だが、確かに郷愁を誘うメロディでじっくり耳にしてみると天才的なメロディの本当に素敵な音楽(日本人なら誰でも条件反射的に「下校時間」を思い出すでしょ?)をドヴォルザークは生み出したものだと感心する。一昨日聴いたバーンスタイン晩年のシベリウスに触発され、同じ頃にイスラエル・フィルとライヴ収録した「家路」を繰り返し聴いた(もちろん全曲聴いたのだが、どうもこの第2楽章がとても気に入ってついつい何度もリピートしたということ)。

とにかく粘っこく、遅い。一般的には12,3分で演奏されるこの楽章をバーンスタインは18分22秒かけて演奏する。何処に思いを馳せているのか、まるで魂だけが抜き出されたような音の連続が遅々として前に進まず、それによって余計に「現在」と「此地」を名残惜しむ感情に満たされる。過去を追想するのでなく、どちらかというと「今」を十分過ぎるほど堪能することで未来への希望を謳歌する。中間部のクラリネットの旋律の愛らしさ。そしてそれに続く弦のピチカートを伴奏(このスローテンポを涙なくして聴けようか!)に奏される木管群による新しい旋律の哀しさとその後のオーボエによる明朗な鳥の囀り!!人によっては「もたれる」ということで嫌う人もいるかもしれないが、ずっと浸っていてもいいと思わせる人間味溢れたパフォーマンス!いや、素晴らしい・・・。

ドヴォルザーク:
・交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」(1986.9Live)
・スラヴ舞曲集作品46~第1番ハ長調、第3番変イ長調、第8番ト短調(1988.6Live)
レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

異形のドヴォルザークであることに間違いない。
しかし、これほどまでに心を震わせられる演奏であるなら、いわゆる「常識」なんていうのはどうでも良くなる。音楽家がその瞬間に感じたことを感じるままに演奏する。そんな時、ともすると独りよがりのマスターベーション的演奏になってしまいがちのところを、百戦錬磨のレニーはオーケストラ団員を一手に掌握し、当日会場の聴衆までをも巻き込んで、おそらく底知れない「感動」をすべての人に与えたことだろう。この演奏、おそらく映像は残されていないように思う。音だけを頼りにしても「ひとつになっている」ことを実感させられる実に貴重なドキュメントだと今になってやっと思う。

ところで、本日、神前の奉納演武に参加した。少々手こずった、というよりとちった・・・。
まぁ、仕方ない。これからまた稽古に励もう・・・。


7 COMMENTS

雅之

こんばんは。

今年最初に買った「新世界」のDVDを、バーンスタインの名演盤の対抗盤にしましょう。

チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル
http://www.amazon.co.jp/Sergiu-Celibidache-Rehearsal-Performance-DVD/dp/B005BMK944/ref=sr_1_4?s=dvd&ie=UTF8&qid=1326632975&sr=1-4

オケは個人的には断然ミュンヘン・フィルのほうが好きですが、指揮者は両方大横綱級で、よい勝負となることでしょう!!

それと、やっぱり映像付きにはいろんな発見が山ほどあり、興味が尽きませんよ。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
チェリ&ミュンヘン・フィルの「新世界」DVDになったんですね!
LDで所有しておりまして、昔よく観ておりました。
これは最高の対抗盤ですね。
ありがとうございます。

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雅之

私もこれは昔、LDで鑑賞していました。
レーザーディスクも悲しい末路でしたね。アクリル+アルミのディスクは経年劣化にも湿気にも弱く、セシウム137の半減期(30年)にも及びませんでしたね(笑)。DVDの登場で、ハード機器もあっという間にあっけなく駆逐されましたし、全部で百数十枚くらいは持っていましたが、大損したコレクションの典型でした。

CDやDVDに強い疑念を抱くのも、LDの時のトラウマが残っていることもあるのかなあ(笑)。

プルトニウム239の半減期、2万4000年くらいは軽く耐久性があるソフトが欲しいです(笑)。CDやDVD、SACDではなく、最先端のソフトで・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
本当に悲しい末路でしたね。
実はいまだにハードもソフトも処分せずにもっております。せめて所有タイトルがすべてDVD化、あるいはBD化されるの待って買い直そうともおもってはいるのですが、しかしBDの今後の運命もわからないわけですから、どうしたものかと悩みます。

>2万4000年くらいは軽く耐久性があるソフトが欲しいです

同感です。

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雅之

BDはキズに強く、スチールウールで100回や200回擦ったぐらいでは影響がほとんどないほどの耐久性をち、また、指紋汚れやチリ・埃が付きにくいとされており、私はそこにも、CD、DVDでのソフトにはない強い魅力を感じているんですよね。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Blu-ray_Disc#.E3.83.87.E3.82.A3.E3.82.B9.E3.82.AF.E3.81.AE.E8.80.90.E4.B9.85.E6.80.A7.E5.95.8F.E9.A1.8C

ただし、これはディスクの長期保存性や、ハード技術の寿命を保証するものではないですからね。

昨今よく世間で話題になるように、光学や磁気で情報を読み取るデジタル技術のソフトよりも、和紙や中性紙の書物、銀塩フィルムの写真や映画のほうが、本当はずっと寿命が長いのかもしれません。

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雅之

ということはですよ、クラシック音楽の長期保存は、紙の楽譜が一番いいんじゃないのかと気が付いたわけです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
いずれにせよ、どんなものでも物というのは永遠じゃないですからね。
紙の楽譜が一番いいというのはそうでしょうね。

ここのところ村上春樹氏が小澤征爾さんにインタビューした本を読んでおりますが、
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4103534281?ie=UTF8&tag=opus3net-22&linkCode=xm2&camp=247&creativeASIN=4103534281
知らないエピソードや示唆に富んだ話題満載で最高に面白いです。その中で、いわゆるレコードマニアの春樹さんに征爾さんが「スコアを読めるように勉強した方が良い」と薦められたようで、より深く音楽を理解するためにもそういうことはやっぱり重要なんだなと考えさせられました。
スコア・リーディングを教えてくれる良い先生はいないものですかねぇ。

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