うねり

朝から都心も雪。
凍えるような寒さの中「寒稽古」のため道場に向かったが、身体を動かせば自ずと温まり、終わる頃には爽快な気分になるのだからまさに早起きは三文の得。合気道はすべての動きが理に適っており、少しずつその凄さを体感しているところで、「自然体で脱力であることが最も力を発揮するのだ」ということがよくわかって面白い。ただし、本当の意味で体得するのは何十年かかるだろう、いや一生かけてもそこまでは行き着かないかもしれない、それくらいに奥深い。
こんな日はやっぱりシベリウスなのだが、明日は「早わかりクラシック音楽入門講座」の第8回目で「ドヴォルザーク&チャイコフスキー」がテーマなので、同じく酷寒のロシアの大地を想像させるようなチャイコフスキーでも聴いておこうといろいろと音盤をとっかえひっかえ。例によって、しばらく聴いていなかったバーンスタイン晩年の後期交響曲集を聴いて暖をとることにした。どれもこれもシベリウス同様、枠からはみ出るような粘っこさと巨大さが特長。しかし、それでいて決してもたれることがないのだから、コレステロール過多ではないということだ。
まずは第5シンフォニーと「ロメオとジュリエット」のカップリングされた音盤からじっくりと。第5番の第2楽章などこれ以上ロマンティックな表現はないだろうと思われるほどの感傷性。これはまるでマーラーのよう。

せっかくなのでもう1枚。今度は第4シンフォニーと「フランチェスカ・ダ・リミニ」盤。

チャイコフスキー:
・交響曲第4番ヘ短調作品36
・ダンテによる交響的幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団(1989.10Live)

死の1年前の記録。バーンスタインの最晩年の極端に遅いテンポは体調不良からくる四肢の自由がきかないところから来るものなのだろうか。それは何ともわからないが、かつてのクレンペラーやベーム同様、そういう事実も音楽的に意味のある必然的事象で、僕の場合彼の若い頃の覇気ある颯爽たる演奏より意外に好きなのだから面白いものである。
しかしながら、よくよく考えてみるとテンポの速い遅いによって嗜好が左右されているかといえばそうでもない。カルロス・クライバーやムラヴィンスキー、最近ではカラヤンも含めての快速テンポでも、「うねり」が感じられれば非常に好感がもてるのだから、やっぱり演奏の内容、音の響きの充足感が大事なのだとあらためて思った次第。
ところで、この第4番。先の第5番も含め、久しぶりに耳にして、これらはその日にエイヴリー・フィッシャー・ホールに居合わせた幸運な観客こそが真のグルーヴ感を味わえただろう、その数千人のための演奏だろうなと感じた。

ちなみに、いずれの音盤においても付録で収録されている2つの管弦楽曲。これが実に素晴らしい。チャイコフスキーは文学的なものを丁寧に音化する才能をもっていた稀有な作曲家だと思うが、それはバーンスタインについてもいえることで、言葉を音楽で表現することが本当に得意な人だったんだろうことがこれらの演奏から明らか。
例の村上春樹氏との対談で小澤さんがバーンスタインのことを天才的な閃きを持った音楽家で、しかもリハーサルにおいては楽曲についての裏話や文学的表現中心に楽員に指示を与える人だったということや、時に話が大きく膨れ上がり、リハーサル時間のほとんどをそのような話で終わらせたこともあったほどだというのを読んでとても興味深く感じた。それによって怒ってしまう団員もいたそうだが、そういう話が楽しみでリハーサルに臨んでいた人もいただろうと想像するとワクワクしてくる。

「ロメジュリ」&「フランチェスカ」、いずれも巨大で濃密な音楽に生まれ変わっているが、原典の書籍を横に置いて、物語を想像しながら聴くとなお良い。

さて、明日も早朝寒稽古。そろそろ寝ないと・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>チャイコフスキーは文学的なものを丁寧に音化する才能をもっていた稀有な作曲家だと思うが、それはバーンスタインについてもいえることで、言葉を音楽で表現することが本当に得意な人だったんだろうことがこれらの演奏から明らか。

チャイコフスキーやバーンスタインを、シューマンからの系列で括ることが可能ですよね。

たとえば、チャイコフスキー「ロメオとジュリエット」から導き出されるものは・・・。

昨年末いらないCDを売って、「ウエスト・サイド物語 製作50周年記念版ブルーレイ・コレクターズBOX」
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E7%89%A9%E8%AA%9E-%E8%A3%BD%E4%BD%9C50%E5%91%A8%E5%B9%B4%E8%A8%98%E5%BF%B5%E7%89%88%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BABOX-5-000%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88%E6%95%B0%E9%87%8F%E9%99%90%E5%AE%9A%E7%94%9F%E7%94%A3-Blu-ray-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%82%BA/dp/B005743LM8/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1327098822&sr=1-1
を買いました(有言実行)。多忙だったため、まだ少しところどころをチェックしただけの状況ですが、今更ながらバーンスタインの生涯で最高の仕事はこの作品だったとしみじみ実感しました。晩年の「弛緩芸」も余人の追従を許さないくらい圧倒的ですが・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
なるほど、確かにそういうつながり、関連は言い得ていますね。

>バーンスタインの生涯で最高の仕事はこの作品だったとしみじみ実感

作曲家としての最大の成功作ですよね。
ご紹介のボックスセットは興味深いです。それにしてもこういうものの値段はずいぶん安くなりましたね。

演奏家としてはおっしゃる通り晩年の「弛緩芸」に尽きると思います。

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