ショスタコーヴィチの「天才」

shostakovich_jansons_symphonies.jpg先日の「社会起業家ネットワークの会」で出逢った大学生N君とお茶をした。1時間半ほどだったが彼の身の上話をじっくり聴きながら、またいくつか「気づき」を与えていただいた。お金儲けと社会貢献のバランスをうまくとることはなかなか難しい。あまりに「人の為、人の為」と言い過ぎるとその字の如く「偽」になる。自分自身についてもきちんと意識を向けることが大事なのである。彼と話していて2年前独立する前の自分のことが多少オーバーラップした。当時は「人の為に動くこと」をだけをモットーにしていた。「自分のことは別にどうでもいいんです」と格好をつけた考えを標榜しながら、結局は「自分のことを棚に上げていた」だけであることにある時気づいた。それは態の良い逃げ口上である。現実逃避でもある。自分を律することもできない輩に何ができるのか?そう考えた時、居ても立ってもいられず、腹をくくって飛び出した。そして早くも2年余り。ようやく地に足がつき、いざこれからという段階になった(ように思う)。とにかく「人に喜んでいただく」ことに焦点を当てて日々行動することと、「今を生きる」ことが大事だと常々言い聞かせている。

ショスタコーヴィチ:交響曲第1番ヘ短調作品10
マリス・ヤンソンス指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキーの薫陶を受けたマリス・ヤンソンスの棒はどちらかというとロシア的でなく、不思議に明るい色調の音楽を生み出す。¥4,000足らずという超破格値で彼がいくつかのオーケストラとの共同作業で作った「ショスタコーヴィチ交響曲全集」を手に入れ、順番に聴いているが、これがなかなか面白い。モーツァルトの再来と騒がれた若干19歳での卒業作品である第1交響曲と、最後の交響曲第15番というカップリングの1枚目を聴く。第1交響曲は普段はハイティンクのものを珍しくよく聴くが、ヤンソンス盤は(この全集の評判については実はあまりよく知らないが)ヨーロッパ調の開放感溢れる雰囲気が(まぁ、能天気といえば能天気なのかも)作曲者の当時の意気込みをうまく表現していて結構好み。彼の実演は残念ながら未聴だが、これは是非とも一度舞台に接してみたいものである。

この曲を聴くたびにショスタコーヴィチの「天才」を心底感じる。「天才」とは、周囲の声にぶれることなく、しっかりと地に足のついた創作活動を自らの内なる声に従ってできた人のことをいうのだろう。ショスタコーヴィチもスターリニズムの影響から体制に迎合せざるを得なかったように解釈されることが多いが、「二枚舌」という評価があるように、彼ほど「嘘の上手かった」人はいないのではないかと思うのである。いついかなる時代、時期においてもショスタコーヴィチはショスタコーヴィチであり、常に自身の「創作意欲」だけを頼りに作品を生み出し続けた天才だと思うのである(とはいえ、第4交響曲のときのように命の危険を感じるようなときは素直に作品を引っ込めたゆえ、そのあたり無闇矢鱈に傍若無人でもなかったことが救いである。後世の我々が彼の一流作品を耳にできる機会をこれだけもてるのはそういう彼の頭脳プレーのなせる技だったのだから)。

そして最後の交響曲第15番。この曲には師であるムラヴィンスキーの空前絶後の名演奏があるゆえ、さすがに聴き劣りするのは止むを得まい。否、というよりムラヴィンスキーの印象が強すぎてどんな演奏をもってしても満足できないのかもしれない。しかし、実演に触れたこともない指揮者の演奏を音盤だけで云々するのは最近のタブー(笑)ゆえ、良し悪しは「よくわからない」と言うに留めておこう。

そういえば、今日は「メーデー」だ。ショスタコーヴィチはプロレタリアート賛歌ともいえる第3交響曲を書いたが、残念ながらこの曲の真価は僕には未知。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
いつも井上道義の話をするのも何なんで、私の持っているお薦め盤を・・・。
交響曲第1番&15番は、デュトワ指揮モントリオール響(DECCA 現在廃盤か)これは最高に美しい名演です。他にザンデルリンク指揮ベルリン響(Berlin Classics )
http://www.hmv.co.jp/product/detail/103415
デュトワとは対照的に重く深い感動をもたらす、これも大好きな演奏です(他の曲も最高)。
全集では、
①キタエンコ指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団(CAPRICCIO SACD これも廃盤か?)
②カエターニ ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団(ARTS SACD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1234414
月並みな言い方ですが、ドイツ的対イタリア的、これも対照的な演奏で面白い、でも、どちらも素晴らしい全集。他にも、最近は良い演奏のCDやSACDが増え、うれしい限りです。
なお、ムラヴィンスキーについては同感ですが、ショスタコの交響曲の最高傑作のひとつである、4番の録音が無いのが残念です。
このようにコメントさせていただいたものの、しかし、しかし、しかし、ショスタコの大半の交響曲こそ、実演に行かなければ、絶対に何たるかを理解することはできないことを、私は一昨年知ってしまったのです。もう、録音だけ聴いて満足していた、元の気持ちには戻れません。 
 

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岡本 浩和

>雅之さま
こんばんは。
ショスタコを採り上げると雅之さんから有意義なコメントをいただけるのでとてもありがたいです。正直僕はショスタコに関しては十分な聴き込みが足りないので、一語一句が勉強になります。
デュトワ盤は評判高いですよね。ただし、ラフマニノフの交響曲などと同様廃盤になってしまっているケースが多く、残念です。復活を切に望みます。
ザンデルリンク盤は未聴ですが、良さそうですね。
さすがに雅之さんは全集などもいろいろと聴いてらっしゃるので頼もしいです。おっしゃるとおりムラヴィンに4番が欠けているのも痛恨事です。
>ショスタコの大半の交響曲こそ、実演に行かなければ、絶対に何たるかを理解することはできないことを、私は一昨年知ってしまったのです。
これは「重み」のある言葉です。実演・・・。確かにそうなんでしょうね。それにしても一昨年の井上道義のプロジェクトをパスしたことが後悔してもしきれません。

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