ジェス・トーマスのワーグナー「アリア集」を聴いて思ふ

jess_thomas_sings_wagner607他者貢献の話をした。
人が生れ出ずる理由は、それこそ他人の役に立つためだ。他人が喜ぶ姿に他人は誰しも感化される。それを「生きがい」と呼ぶのである。

この人は使命をもって生命を全うしたのだと思った。今の時代、66歳というのは決して長生きとはいえない。しかし、彼は与えられた時間を完全燃焼したのである。そのことは彼の歌うワーグナーを聴けばわかる。
一世一代のヘルデン・テノール。それぞれの楽劇で示される歌唱の異様な(?)解放は誰よりもエネルギッシュ。それでいて、誰よりも明朗で軽く、生き生きとする。ワーグナーの思想を見事に体現する姿勢。圧倒的、そして感動的である。

ジェス・トーマス ワーグナー:アリア集
・楽劇「ジークフリート」(ジークフリート)
―あいつが俺の父親でないとは(第2幕)
―さあ、歌って!耳を澄ましているからね(第2幕)
―この陽当たりのいい丘の上は!(第3幕)
―これは男じゃない!(第3幕)
キャスリーン・ガイヤー(ソプラノ、森の小鳥)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1968.12&1969.2録音)
・楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(ヴァルター)
―始めよ!(第1幕)
―朝はばら色に輝いて(第3幕)
・楽劇「ワルキューレ」(ジークムント)
―一本の剣を父は私に約束した(第1幕)
・楽劇「ラインの黄金」(ローゲ)
―いつもローゲは忘恩で報いられる(第2場)
・歌劇「リエンツィ」(リエンツィ)
―全能の父よ、見守りたまえ(リエンツィの祈り)(第5幕)
・舞台神聖祭典劇「パルジファル」(パルジファル)
―願いをかなえる武器はただひとつ(第3幕)
・歌劇「ローエングリン」(ローエングリン)
―この上もない信頼をそなたに授けたはずだ(第3幕)
―遥かな国に(グラール語り)(第3幕)
ヴァルター・ボルン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1963.3.18-20録音)
―愛しい白鳥よ(ローエングリンの別れの歌)(第3幕)
フランツ・クラス(バス、ハインリヒ・デア・フォーグラー)
アストリッド・ヴァルナイ(ソプラノ、オルトルート)
アニア・シリヤ(ソプラノ、エルザ・フォン・ブラバント)
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団(1962.7Live)
ジェス・トーマス(テノール)

リヒャルト・ワーグナーは図太かった。
それにしても彼の創造した音楽はこの上なく崇高だ。あれほどの俗物がこんなにも聖なる音響を生み出すには命を懸けていたとしか思えない。他人が何と言おうと彼は自分を信じていた。

わたしは世間の人とは作りがちがっていて、感じやすい神経をもっているんです―美しいもの、きらびやかなものをわたしは無しではすまされないのです!世間はわたしが必要としているものをわたしに与える義務があるんだ!わたしはあなたが尊敬しているバッハのように、みじめなオルガニストの地位では生きていけないのです!ちょっとした贅沢を要求する権利が自分にあると考えることが、そんなにけしからんことでしょうか?何千人という世間の人びとに楽しみをあたえているこのわたしがですよ!
(女流作家エリーザ・ヴィレの回想によるワーグナー自身の言葉)
三光長治著「カラー版作曲家の生涯 ワーグナー」(新潮文庫)P46

ある意味傲慢だ。しかし、当時どん底にあったワーグナーにおいては正論でもある。
やはり天才の心底に流れるものは「勝手にしやがれ!」だ。
そんなことを承知の上で、あえて言う。
ワーグナーは素晴らしい。
ジェス・トーマスの歌は美しい。

 

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3 COMMENTS

雅之

「勝手にしやがれ」⇒「悲しみよこんにちは」

http://classic.opus-3.net/blog/?p=21106

⇒ ジーン・セバーグ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0

私の愚息は東京のK大学に行っていますが、何をやっているのやらまったく消息不明。

もう、勝手にしやがれ!

こっちはこっちで今年7月銀婚式で勝手に楽しんでるし、娘は4月から地元の大学に入学して親の価値観とは関係なく大学生活を満喫しているようだし。

みんな、勝手にしやがれ!

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岡本 浩和

>雅之様

意識はしていなかったのですが、宇野さんからの影響はなかなか抜けられません。(笑)

何よりジーン・セバーグに発想が飛ぶ雅之さんのセンスに拍手!
「勝手にしやがれ!」はゴダールというより岡本太郎です。

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