30年前、僕は山奥の実家から高校のある県庁所在地方面までバスで通っていた。国鉄もあるにはあったが、いかんせん遠回りであったこと、そしてローカルの単線ディーゼル車は1時間に1本どころか時間帯によっては2時間1本しか走っていないという不便さだったし、何度も乗換を強いられたから、乗ってしまえば一本で到着するバスを選択した(さらには、最寄りの駅まで自転車で20分近くかかる距離だったからなおさら)。
ひと山超え、二山超え、1時間近くの道程をローカル・バスに揺られて朝夕往復するのだが、バスの中の毎日の人間模様と、季節によってバスの外の山の木々の色付きや風景が変化するその対比が実に興味深かった。当時発売されたばかりのウォークマンを片手に本を読んだり、英単語を覚えたり、そんな「真面目な(笑)」高校生だったように思う。
とにかく都会に出たいという欲求から大学は東京を選んだが、それからあっという間に30年近くの年月が経過する。もうそんなに長くコンクリート・ジャングルに住んでいるのかと思いつつも、日中、千葉の奥地までやって来て、ローカル・バスに揺られているうち、かつての風景が蘇ってきた。もちろん故郷に比べれば千葉の方がずっと都会ではある。昔違って運賃はパスモでの支払い。技術的な進化はいろいろとあるが、バスという限定された空間に見知らぬ者どおしが隣り合わせて座るという風情が何とも不思議。
若い頃は、山奥に生まれ育ったことを憾んだこともあったが、年齢を重ねるにつれ自然の中で生活することの気持よさがよくわかる。自然を感じながら、自然とひとつになって生きることってなんて素敵なんだろう。
ブルックナーの交響曲、中でも第6交響曲は「自然を賛美」する可憐な田園交響曲だ。ヨーロッパ中世の大伽藍・第5交響曲と、宇宙の調和と神とを表す第7以降の後期三大交響曲の間にあって、「谷間の百合」さながらの、いかにも味のあるブルックナーらしい音楽。
ブルックナー:交響曲第6番イ長調(原典版)
オイゲン・ヨッフム指揮シュターツカペレ・ドレスデン
ブルックナーのアダージョはいつも美しい。特に第6交響曲の場合はこの楽章が白眉だと思う。晩年のブルックナーの緩徐楽章は彼岸の音楽だが、第6に関してはかろうじて此岸に足を留めている。後期の緩徐楽章(特に第8や第9)に比べ、肩の力を抜いて楽曲そのものに身を委ねられるからよりとっつきやすい。極めて現世的な「自然讃歌」。その意味ではヨッフム翁の現実的な棒がぴったり。
※ところで、この30日(火)にインバル&都響が定期演奏会でブル6を披露する。ようやく実演に触れる機会を得られるので楽しみだ。ちなみに、チケットが1枚余っております。ご一緒できる方ご連絡くださればお譲りします。
こんばんは。
ヨッフム、実演を聴きたかったです。ご紹介のCDは私も好きです。
インバル&都響の実演、期待できますよね。私は東京時代、このコンビでマーラーの6番、7番、ベートーヴェン第9を聴き、特にマーラーの7番とベト9は、空前絶後と言いたいくらいの究極の名演でした。ただし、どちらかと言うとインバルは、マーラー、フルトヴェングラー、バーンスタインといった指揮者同様、表現主義寄りのタイプですね。未知のブルックナー、楽しみですね。聴けるのが羨ましいです。
ところで、本日ショックだったのは、ウィーン・フィル団員のコントラバス奏者、ゲオルク・シュトラッカさん(41)が、富士登山中に3700メートル付近で約300メートル滑落し、亡くなられたことです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101103-OYT1T00573.htm
ゲルハルト・ヘッツェルさんの悲劇再びといった感じで絶句してしまいました。
心からご冥福をお祈りしたいです。
それにしても、今年のウィーン・フィルの来日は混乱を極めているようですね。
http://ameblo.jp/wien-musik/entry-10675662868.html
>雅之様
こんばんは。
いや、ヨッフムの実演はヴァントやクライバーの実演と同じレベルの貴重な体験でした。はい、やっぱり彼のブルックナーは最高です(しかし音盤には収まりきりませんね)。
インバルのブルックナー楽しみです。本当は雅之さんをお誘いしたいくらいですが・・・。
インバルのマラ7と第9の実演体験興味深いですね。表現主義寄りとのことですが、20年近く前に僕が聴いた印象とはちょっと違うかもしれませんね。意外にさらっとしていたという記憶なのですが・・・。まぁ、20年も経てば人間変わりますからね。楽しみです。
ウィーン・フィル団員のコントラバス奏者、ゲオルク・シュトラッカさん、亡くなりましたね・・・。しかもヘッツェル氏と同じような事故で・・・。まぁ、運命としか言いようがないのでしょうが、若過ぎますね。同じく冥福をお祈りいたします。
それと、確かに今年のVPO来日は混乱を極めてますが、指揮者が変更になって僕などは逆に興味深く、聴いてみたいと思うようになりました。メストのブルックナーも、プレートルの「エロイカ」も実演で触れてみたいところです。
インバルはフランクフルト放送響の音楽監督時代の圧倒的名演の実演も、マーラーなどを聴いていますが、都響を指揮する現在の方が、より音楽に対する表現主義的姿勢が、結果出てくる音そのものに感じられるようになってきていると思います。
これは、録音でも、たとえばフランクフルト放送響と都響との、二つのチャイ5の音盤の聴き比べでも、よくわかります。
新盤の都響のほう
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3698310
さて、今回のブルックナーの6番はどうでしょうね。全曲初演の指揮者マーラーを彷彿とさせるのでしょうか?(笑)。
それと、メストは、ずっと世間での評価が低かったのですが、私自身は以前ロンドン・フィルの来日でテンシュテットの代わりに指揮したベートーヴェンの5番・6番の交響曲の実演を聴き、若々しい名演に満足でき、以後すっかりファンになりました。オペラの指揮でも定評がありますし、何といっても同世代なので、贔屓したくもなります。現在の活躍、うれしい限りです。
彼が指揮する予定の、11月9日のサントリーでの、ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』から「前奏曲と愛の死」と、ブルックナーの9番(未完成)は、ウィーン・フィルの団員にとっても、特別な演奏になりそうですね。物凄く聴く価値がありそうですね。
そして、言うまでもなく翌日のプレートル指揮のエロイカも・・・。
何だか意味深なプログラムになってしまいました。
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/perform/list1011.html#P09M1
>雅之様
おはようございます。
なるほど。僕は実に久しぶりにインバルに触れます。実演はもちろん、CDでもまったく無視しておりましたので、最近の音盤は一切聴いておりませんでした。雅之さんのコメントにより一層楽しみになりました。マーラーを彷彿とさせるような演奏になるなら尚更です・・・笑(もっともマーラーの演奏は聴いたことがないので、比較できませんが)。ありがとうございます。
ウィーン・フィルとの今回の来日公演は実に興味深いですね。
確かに意味深です。