新しい血

ひとりひとり自分が「ユニークな存在であること」に気づくことはその後の人生を謳歌する意味でとても大きなポイント。誰一人として不要な人物などいない。何かをするためにこの世に生を受け、今ここで、必要な人々と出逢っているのだから。

ピーター・ガブリエルが昨年リリースした最新アルバムは、前作の流れを汲み、管弦楽をバックにしての自身の旧作のカバーというもの。ロック・スターという観点から考えると、バンドではなくオーケストラを従えてのレコーディングというのは決して諸手を挙げて賞賛されたものではないはずなのだが、これまでのピーターのキャリアと志向、そして出来上がった代物を耳にするにつけ、ファンだけでなくあらゆる音楽愛好家をノックアウトするだけのパワーと必然性があるように僕には思える。その思いは音盤を繰り返し聴くたびに深まるし、何よりロンドンでのコンサートの模様を収めたBlu-ray Discを観ることによって確信に変わる。

1976年に突如「普通のロック・スターに成り上がってゆく」自身に嫌気が差し、その絶頂期でGenesisを脱退したというその行為そのものにそもそもピーター・ガブリエルの本質がある。常に自分自身のポリシーを曲げず、地に足が着き、ぶれることなく(売れ線を狙うことなく)ガブリエル・ミュージックを追究する。サード・アルバムフォース・アルバムはその最たるもの。5枚目の”So”によって爆発的売り上げを達成するもののガブリエルはガブリエルであって、大変な長期のスパンで大事に自らの音楽を発表してゆく姿勢を以降も崩さない。そんな流れの中2011年、実績に裏打ちされた「自信」がどの瞬間にも感じられる、最新アルバム”new blood”がリリースされる。まさにそのタイトル通り「新しい血」を張り巡らされた楽曲たちが時に火を噴き、時に鎮静し、聴く者の心を捕えて離さない。

peter gabriel:new blood

Personnel
Peter Gabriel(lead vocals)
Melanie Gabriel, Ane Brun, Tom Cawley(vocals)
The New Blood Orchestra
Conducted by Ben Foster

僕のお気に入りは、後半”Don’t Give Up”以降、”Digging in the Dirt”、”The Nest that Sailed the Sky”、”A Quiet Moment”、そしてアンコールに”Solsbury Hill”という流れ。特に、オーケストラだけで奏される”The Nest that Sailed the Sky”の深遠な宇宙を思わせる響きと、その後に続く、4分48秒に及ぶまったく静寂のみの”A Quiet Moment”が涙もの。よくぞこういう「音楽」を創れたものだと感心する。本当にユニーク。そしてそれは唯一無二。だからこそ最初期のヒット曲である”Solsbury Hill”が余計に生きるというもの。
慢心することなく過去の作品にも「新しい血」を注ぎ込む、しかもその手段が常套のものではなく世間をあっと驚かせる、逆に反発を食らってもいいかのような方法によって「攻め」の姿勢を失わないPeter Gabrielはクリエイターの、いや人間の鑑。

2012年最初の満月。美しかった。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。

今日は苦手分野、勉強します。

プログレの話題は詳しくないけど昨日のサプライズを!!
また岡本さんから無視される話題だ(爆)。いいもん。

昨日始まった大河ドラマ「平清盛」のオープニングを観て、

音楽:吉松隆
テーマ音楽指揮:井上道義
テーマ曲演奏:舘野泉

と、ここまでは想定内。

と、ところが、な何と、
挿入歌:EL&P「タルカス」(吉松先生によるかの有名な傑作オケ編曲版)!!

その効果は絶大で、平安末期にもよくマッチし、じつに素晴らしかったです!!!

反響も大きいようで。
http://lightmellow.livedoor.biz/archives/51838358.html

http://firth.blog.bbiq.jp/blog/2012/01/post-d686.html

・・・他多数の方が採り上げておられるようです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

「平清盛」については僕も録画済みながら、実はまだ観ることができておりません。
しかしながら、先日放映前に予告編を偶然観まして、「タルカス」が使われていることは知っておりました。
何となくぼーっと見ていたのでその瞬間は気にしていなかったのですが、「あれっ、どこかで聴いたことのあるBGMだな」と思ったら・・・、「タルカス」吉松バージョンじゃないですか!!
おっしゃるとおり見事にマッチしてますよね。
本編第1回は近いうちに観ます。

ありがとうございます。

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