クリス・スクワイア追悼 “The Yes Album”を聴いて思ふ

早30年という時が経過する。当時、遅れて来たイエス・ファンの僕は、毎日のように彼らの音楽を聴き漁って悦に浸っていたことを昨日のことのように思い出す。”Fragile”(こわれもの)も”Close To the Edge”(危機)ももちろん後世に残るイエスを代表する永遠不滅の作品だが、個々のメンバーの力量が最高度に発揮され、楽曲のポピュラリティと斬新さのバランスが完璧に機能し、しかも絶対的アンサンブルで、時代の先端に切り込んでいった荒々しさ残る”The Yes Album”(サード・アルバム)こそ、誰もが認める2枚の不朽の名作をある意味凌駕する、いまだに新鮮で発見の多い至高の傑作だろう(と僕は思う)。

例えば、アナログ盤B面1曲目の”I’ve Seen All Good People”前半のスティーヴ・ハウのギターとジョン・アンダースンを中心とした3声のハーモニーの美しさと若々しさと、そしてちょうどこの頃の彼らが内に秘めていたであろう野心が見事に刻印され、その音楽の力強さ、魔力たるや底知れない魅力に包まれる。
あるいは、ジョン・アンダースンの”Life Seeker”、クリス・スクワイアの”Disillusion”、そしてスティーヴ・ハウの”Würm”の3つのパートで構成されるA面3曲目の”Starship Trooper”の各メンバーの押しと引きとが見事に中庸となり、一見とりとめもないジャム・セッション風の楽曲でありながら、最後のスティーヴのインストゥルメンタル・パートで弾ける、そのあまりのエネルギーの熱さと集中に卒倒しそうになるほど。
もちろんスティーヴ・ハウの代名詞ともいえる”The Clap”の躍動美については、今さら僕が何かを語るまでもない。

The Yes Album

Personnel
Jon Anderson (vocals, percussion)
Chris Squire (bass guitars, vocals)
Steve Howe (electric & acoustic guitars, vachalia, vocal)
Tony Kaye (piano, organ, moog)
Bill Bruford (drums, percussion)

アルバムのリリース後、長いアメリカ・ツアーの直後、キーボードのトニー・ケイが脱退した。個性の強いメンバーたちが互いにしのぎを削り合いながらの凄まじいテンションでの演奏を繰り返した結果、心身が消耗し、必ず誰かがいわば「ハズレくじ」を引くことになるのはこういう人気バンドの常。

僕はイエスでスティーヴのギターのバックで色づけとして、また、ある点まではスティーヴのリード楽器としても、オルガンを演奏している。僕はステージに上がってもセミ・クラシカルなソロ・パートを開拓することが出来るとは思っていない。それは極限の状況を気ままに楽しんでいるようなものだ。ステージで演奏する素晴らしさの一つは、ほかの4人と一緒にグループの一員として演奏することだ。僕はソロ・コンサートが出来るとは思っていない。そんなことは家でやるよ。
黒田史朗著「イエス」(音楽之友社)P101

アメリカ公演出発の1ヶ月ほど前のトニー・ケイのインタビューでの発言である。
トニーは、ソロではできるとは思っていなかったものの、ピーター・バンクスの後釜として加入したスティーヴの色付け役としての影の機能に成り下がったことに我慢ならなかったよう。
しかし、たとえ感情的に複雑なものがあろうと、少なくとも”The Yes Album”でのトニーのエレクトリック・オルガンは美しく情熱的だ。

ところで、メンバー交代が多発する長いバンドの歴史の中で、唯一オリジナル・メンバーとして活動し続けたクリス・スクワイアのベース・プレイはこのアルバムでも要となる。
しかしながら、僕はその重要性に随分長い間気づかなかった。25年前、クリス抜きのイエス、すなわちA, B, W &Hの来日公演に触れた時も、クリス抜きであることに何の疑問も抱かず感動する僕がいたくらい。

クリス・スクワイアが亡くなった。あまりに突然に。
昨年の「こわれもの」&「危機」完全再現ライヴの来日公演も無視してしまっていた。
無念。後悔先に立たず。

 

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2 COMMENTS

みどり

岡本さん、ご無沙汰しております。
クリス・スクワイアの突然の訃報に接し、過去記事を改めて拝読して
おりました。

『こわれもの』&『危機』完全再現ライヴは、昨年11月25日にDCHで
観たのですが、『危機』『こわれもの』の順で演奏され、アンコールに
『ヘヴン&アース』から「ビリーヴ・アゲイン」と「ザ・ゲーム」
『90125』から「ロンリー・ハート」というセットリストでした。

ヴォーカルのジョン・デイヴィソンが若い頃のジョン・アンダースンに
雰囲気の似たルックスで、とても丁寧に歌っていることもあり
内容は悪くないと思いましたが、同行した筋金入りのイエス信者で
クリスを師と崇める友人は「あのヴォーカルは細部に亘って丁寧に
ジョンらしく歌い上げていたので、イエス本人達が演っているにも
拘わらず良質のコピーバンドのように思えた」と。

岡本さんがご覧になられていたなら、やはり何処かに違和感を
抱かれたかもしれません。

本当に、岡本さんの仰る通り、今生とは有限のものなのだと
改めて思い知った次第です。

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岡本 浩和

>みどり様
ご無沙汰しております。
あ、昨年の来日公演は当然観ておられるわけですね。

Youtubeでもアメリカツアーか何かの様子がアップされておりますが、デイヴィソンのジョン・アンダースン以上にジョン・アンダースンっぽい声質に驚きました。
今のジョンは声に衰えが間違いなくあり、往年の輝きを失っているということもあるので、逆に過去の楽曲を演奏するにはこの人の方がより向いているのかもしれません・・・。
それでも同行の方のご意見が「良質のコピーバンド」と仰ったことが示すように、何かしらの違和感はあるのだと思います。特にライヴは視覚という要素も重要ですからね。容姿も似ているとはいえ、明らかにジョン・アンダースンではないわけで・・・。

それでもまさかこんなに突然にクリスが亡くなるとは想像もしていなかったので、今更ながら行っておけば良かったと後悔があります。そういえば、ちょうど去年の昨日、リック・ウェイクマンを観ていたんだと思い出しました。月日の経過はあっという間です。
ライヴも観れるときに観ておかなければですね。
ありがとうございます。

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