都響第736回定期演奏会Bシリーズ:庄司紗矢香を聴いた

庄司紗矢香はやっぱり素晴らしい。
今宵、東京都交響楽団第736回定期演奏会Bシリーズを訪れた。20世紀の傑作たちがひしめく超重量級プログラム。これらの音楽がいかにドイツ音楽を参照して創られたものかということ、そして中でもバルトークというのは「特異な存在」で、誰の影響も受けず(少し語弊はあるけれど)孤高の作曲家として実は君臨しているんだということが確認できた、そんな素敵なひとときだった。

J.S.バッハからモーツァルト、そしてベートーヴェンに至るドイツ古典派の音楽をもって、現代のクラシック音楽のある意味源流だといっても過言ではない。そして彼らの創造物を追いつけ追い越せとばかりに競った後世の作曲家の頂点がじつにワーグナーで、19世紀後半のヨーロッパ世界を席巻したワーグナー熱が20世紀の音楽家たちにもやっぱり多大な影響を及ぼしているんだということまで確認できたことが良かった。

東京都交響楽団第736回定期演奏会Bシリーズ
2012年6月18日(月)19:00開演 サントリーホール

・シェーンベルク:浄夜作品4
・シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番作品35
休憩
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲
庄司紗矢香(ヴァイオリン)
矢部達哉(コンサートマスター)
大野和士指揮東京都交響楽団

世紀末にシェーンベルクが生み出した「浄夜」には明らかにワーグナーの「トリスタン」の木魂が聴こえる。そして、ワーグナーの「エロス&タナトス」の感情を引き継ぎながらもこれほどまでに人間の闇の部分に焦点を当て抉りだそうとした音楽は珍しい。世紀末のカオスと、混沌としているがゆえの清潔さが随所に垣間見られる、そんな美しい演奏だった(当初、弦楽六重奏のために書かれたこの曲が弦楽合奏版に編曲されたのが1917年、すなわちシマノフスキの協奏曲が作曲されたのとほぼ同時期、そして改訂が施された1943年はバルトークのオケコンが創られた年。何とも興味深い符合)。外面的には何ともクールでありながら実際には内側が火傷するような熱さ。

庄司紗矢香のシマノフスキはテクニックといい表現といい文句なし。この音楽を僕は初めて聴いた。第一印象はストラヴィンスキーの影響下にあり、ということ。プログラム解説を読むと、確かにこの作曲家がパリでスキャンダルを起こしたすぐ後にロンドンで会い、互いに意気投合した旨が書かれてあった。特に管楽器の扱い方にそれが顕著だ。そして、シマノフスキもやっぱりワーグナーの影響下にあった。複雑な音型の中にワーグナー様のいかにも誇大妄想的な音が散りばめられる。
それにしてもこのヴァイオリニストの奏でる音楽は図太い。中心線がしっかりしており、まったくぶれない。とはいえ、カデンツァなどは真に繊細な表現で、ともかく音楽が伸び伸びと活きる。

休憩後はバルトーク。
長年バルトークを聴いていながらあらためて思ったこと。バルトークはモーツァルトやブルックナー同様(あ、ショスタコーヴィチもそう)前例がなく、同時に後継者もいない唯一無二の存在だということ。そして、前プロ2人の作曲家があくまで西洋音楽の使徒であるのに対してバルトークには東洋的な中庸の要素が含まれていること。
死期を悟った作曲家が渾身の力を込めて創作したこの音楽には禅の精神が見え、人間の感情を超えた「宇宙の絶対音」が聴こえるかのよう(どんな音だ?笑)。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

庄司紗矢香は、そんなにも特別的存在ですか! それは、私もいつか聴いてみなきゃです。

シマノフスキはヴァイオリン協奏曲第1番Op.35が派手でよくコンサートの演目に上がりますが、ヴァイオリン協奏曲第2番Op.61はより深い傑作と昔から思っています。そして、交響曲第4番Op.60(協奏交響曲)が更に大傑作だと思っています(詳しくは書きませんが、過去に3曲とも実演に接した経験あり)。

Op.60、Op.61といえば、ベートーヴェンの交響曲第4番と第5番を連想しますが、シマノフスキは意識していたかもしれません。

この2曲が入っている音盤では、ラトル&バーミンガム響他のが入手しやすいですよね。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2689119

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは
庄司紗矢香のヴァイオリンは、何と表現したらいいでしょうか、芯がしっかりしていながら(男性的で)出てくる音はとても女性的で惚れ惚れする美しさなのです。自立した麗しき女性というのでしょうか。
ぜひとも実演に触れてみていただきたく思います。

ご紹介のラトルによるシマノフスキ、一部だけ音盤を所有しております。しかし、おすすめの作品60&61とも未聴ですので聴いてみたいと思います。
ありがとうございます。

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