松本隆の「水車小屋の娘」

はっぴいえんどの凄さは、大瀧詠一の歌唱や音楽性、それに細野晴臣らの斬新なプレイにあることは間違いないが、実に松本隆の生み出す詩の魅力に依るところが大きい。ロック音楽に日本語を乗せた最初のケースとして名高く、桑田圭祐のそれとも井上陽水のそれとも違って何ともわかりやすくかつ新鮮で、直接心に響くところが昔から好きだった。
ちなみに、僕の中で松本隆の傑作は大瀧詠一のファースト・ソロ・アルバムに収められた数々の名曲たち(あ、「ロンバケ」の「さらばシベリア鉄道」なんてのもあったか・・・)。例えば、「それはぼくぢゃないよ」、あるいは「乱れ髪」。特に「それはぼくぢゃないよ」なんていうのは絶対的マスターピース。

仙波知司さんからいただいたシューベルトの歌曲集「美しき水車小屋の娘」。
ただの「水車小屋」ではない。何と松本隆の日本語詞、そして横山幸雄の伴奏で福井敬が歌うという代物。発売当時ややゲテモノ扱いで、見向きもしなったが、ここのところのシューベルト・ブームでリートに久しぶりに浸り、その旨を記事にしたところ仙波さんから件の音盤の情報を得(実に仙波さんが制作されていたとのこと!)、俄然興味が湧き、早速贈っていただけた(感謝!)。

そうはいうものの、しばらく耳にできず、ようやく本日時間をとり繰り返し聴いた。
聴いてみて吃驚。もともと日本語のために作られた歌なのではないかと錯覚するほどまったく違和感がない。

シューベルト:
・歌曲集「美しき水車小屋の娘」(ミュラー原詩、松本隆日本語詞)
・魔王(ゲーテ原詩、松本隆日本語詞)
・アヴェ・マリア(スコット原詩、松本隆日本語詞)
福井敬(テノール)
横山幸雄(ピアノ)
松本隆(プロデュース)(2004.3.29-31録音)

松本隆の詩の力により、ミュラーとシューベルトの心の叫びがひとつになって直接訴えかけてくるよう。僕はやっぱり、恋に破れた青年が自暴自棄になり、死に向かって進みゆく第11曲以降が好きだな・・・。
第12曲「休憩」はほっとする瞬間だ。福井の歌唱はもちろんのこと、横山のピアノ伴奏が天才的ひらめきを見せる。内田光子のも素晴らしいと感じたが、静かに流れる前奏から何と心が落ち着くことか。果たしてこれほどまでに癒される音楽が他にあるのか。
第19曲「入水」は純白の美しさ。

苦しみから放たれて
星は空に新しく
星は空に生まれるよ

白と赤に染め分けた
バラが3本不死の花
翼をたたんだ天使たち
朝になると舞い降りる
朝になると舞い降りる

そして終曲「川の子守歌」。美し過ぎる。もはや言葉にならない感動。
(付録の「魔王」も「アヴェ・マリア」も絶品。あらためて松本隆の偉大さを痛感する)


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