サン=サーンス:死の舞踏

日常僕はドラマを観ない。でも、「カラマーゾフの兄弟」にははまった。原作の方は江川卓訳の新潮文庫を愛読していたが、米川正夫訳の岩波文庫版も仕入れて読み始めたほど。ドラマをなぞっているせいか昔より内容がすっと入る。映画にせよテレビにせよ、映像化されたものは大概小説そのものを越えられないものだけれど、原作をより深く理解するための手引きにはなるからありがたい。

フジテレビの「カラマーゾフ」、何よりBGMの選曲センスが抜群で、それを聴くだけでも大層な価値がある(大袈裟・・・)。第1話だったか第2話ではサン=サーンスの「死の舞踏」が効果的に使われていた。これまでこの曲にこんなに感動を覚えたことなどなかったのに、とにかくあのドラマのあのシーンにぴったりだった。それと、懐かしい60年代から70年代のロック・ミュージックが・・・。原作の「カラマーゾフ家」は、ドラマでは「黒澤家」。で、ストーンズの”Paint It Black”(黒くぬれ!)とか、ビートルズの”Blackbird”とか。巧い!あ、ツェッペリンも使われていたな。それも”Babe, I’m Gonna Leave You”、・・・渋い。

ラインベルガーやらメンデルスゾーンやらを聴いてきて、やっぱりはずせないのはサン=サーンスだと思ったわけ・・・。彼は19世紀後半のフランスの楽壇において大変大きな力を持っていた大作曲家だけれど、革新的なドビュッシーの音楽などはよくわからなかったみたいで・・・(それでなのかどうなのか、サン=サーンスも天才なのだけれどいまひとつ評価が高くない。残念)。

ドビュッシー氏が出版したばかりの、2台のピアノのための「黒と白」という曲を見てみるようすすめます。突拍子もないものです。こんなひどいことのできるような人物は、ぜひともアカデミーから締め出しを食わせるべきです。キュービストの絵と同じです。
(1915年12月27日付サン=サーンスからフォーレへの手紙)
ドビュッシー:黒と白で(リヒテル&ブリテン)

サン=サーンスの場合必ずしも保守一辺倒であったわけではなく、結構斬新なアイデアを導入して音楽を創造しているというのも確か(「白鳥」以外本人的に屑扱いの「動物の謝肉祭」も、印象主義の技法を使うなど新しい方法がいくつかあるようだし)。世代の入れ替わり期にはいろいろと問題が起こるというのは世の常。そもそも「思考回路」や「センス」がまったく異なるのだから。

サン=サーンスを少し聴いてみたくなったのでシャルル・デュトワが棒を振った音盤を取り出した。

サン=サーンス:
・組曲「動物の謝肉祭」
・交響詩「ファエトン」作品39
・交響詩「オンファールの糸車」作品31
・交響詩「死の舞踏」作品40
ロビン・マクギー(コントラバス)
アントニー・ペイ(クラリネット)
セバスティアン・ベル(フルート)
クリストファー・ファン・ケンペン(チェロ)
パスカル・ロジェ、クリスティーナ・オルティス(ピアノ)
シャルル・デュトワ指揮ロンドン・シンフォニエッタ、フィルハーモニア管弦楽団(1980.3&6録音)

3つの交響詩が生み出されたのは、ちょうどサン=サーンスが「国民音楽協会」を創設し、フランスにおける器楽音楽の発展という精神にのっとって創作に力を注いでいた頃。

「死の舞踏」はアンリ・カザリスの詩からインスパイアされたもの。
「カラマーゾフ」でも象徴的に使われていた、冒頭の不協和音の不気味な旋律を奏でる独奏ヴァイオリンや骸骨がぶつかり合う音を表現したシロフォンの音色。シロフォンの方は後に「動物の謝肉祭」第12曲「化石」にも使われたけれど、何だかこの剽軽でありながらシニカルな音調は原作でいうところの父フョードル(ドラマでは文蔵)の表象にぴったりで、よくまぁこんな音楽の使用を閃いたものだと感心する(音楽プロデューサーは志田博英氏)。


2 COMMENTS

みどり

80歳にして「ドビュッシーを締め出そう」とフォーレに書き送ったものが
こうして伝わってしまう訳で…

書いたものは遺るのですから、岡本さんも後世に恥じないものを
これからたくさん書いて行かなければなりませんね!(笑)
頑張ってください。

「死の舞踏」はエドウィン・ルメアによるオルガン編曲版が素晴らしいです。
オルガニストであればレパートリーに加えたい曲の一つではないかと
思います。

返信する
岡本 浩和

>みどり様

>後世に恥じないものをこれからたくさん書いて行かなければなりませんね!

おっしゃる通りです。今後とも鋭いご指摘よろしくお願いいたします。

ルメアによるオルガン版聴いてみました。
http://www.youtube.com/watch?v=Av50-4o7ABY

素晴らしい!
こういうコアな情報はなかなか手に入りませんから・・・。
いつもありがとうございます。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む