ダウランドを聴いていて閃いた~Kate Bush:The Sensual World

引き続きヘンデル。
少なくとも彼は一流のエンターテイナーであったことは確か。一時は劇場の興行主にまでなり、数シーズン、プロデューサーとしてすべてを取り仕切る立場にあった。資本主義の上に成り立つ、現代の音楽業界のシステムとほぼ同様のことが300年前のロンドンでもすでにあったことが興味深い。オペラ劇場の競争。いかに観客を掴むか。いかに利益を出すか。そして連日の興行による肉体の酷使、あるいは精神的プレッシャー。身体を壊しながらもそういう状況を見事に乗り切り、レベルの高い作品を書き続けたヘンデルの力量にまずは舌を巻く。

ヘンデルは芸術的才能だけでなく実業家としての才能にも長けていた点が、後世の音楽家の尊敬を集めた大きな理由のひとつではないのか。ベートーヴェンは過去の音楽家で最も評価していたようだし、ブラームスもヘンデルの主題を使って美しい変奏曲を書いているところをみると間違いない。ともかくその猛烈な働きぶりは現代の音楽エンタメ業界の大物プロデューサーの如き。

彼は、悪く言えば他人に取り入るのがとても上手かった。それに半端でない音楽的才能を武器に早い時期から王室とつながった。それこそ先見の明だが、それよりも機をみて確実に捉えることのできる眼があったことがすごい。予見と実行力。そして精神力と体力。
21世紀のビジネスマンも欲しがるような能力が目白押し。

大英帝国に骨を埋めたドイツ人、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(英名、ジョージ・フレデリック・ハンデル)。膨大な劇場作品、王室のために書いた作品、あるいは世俗作品、それらを眼の前にしてどうやって享受し、その世界に入り込むか足がすくむ思い・・・。

英国音楽史をひもとくと、イギリスにはヘンデルの少し前にヘンリー・パーセル(1659-1695)があった。さらに遡るとジョン・ダウランド(1563-1626)。その前には、ウィリアム・バード(1543?-1623)、トマス・タリス(1505?-1585)・・・。

パーセルは王室少年聖歌隊の一員から王室付調律師へ。そして若くして王室楽団の指揮者兼作曲家として活動。ダウランドなどは宗教の違いからイギリス国内では活躍できず(それにしても彼の作品はほとんどが世俗作品であることが面白い)、他の地に活動の場を求めたが、齢40を超えて本国に戻り、国王付のリュート奏者となった。バードもパーセル同様王室少年聖歌隊の一員。しかし、カトリック教徒であったがゆえにロンドンから移住。タリスも弟子のバードと王室のオルガン奏者として活躍。しかし、同様に彼もカトリック信者。

音楽の世界が奥深いのは、歴史と切っても切れないから。しかも、例えば英国の場合、そこには宗教的対立や国教会そのものへの理解、さらには伏魔殿(?)としての英国王室についての徹底理解が必要になるから。これは完全に空想の域を出ないが、英国音楽をものにするにどうしても宗教と王室についての理解は避けて通れない。それこそタリスからダウランド、パーセルを経てヘンデルを挟み、途中不毛期があるものの、エルガーやヴォーン・ウィリアムズ、ブリテン、果てはビートルズやストーンズを生む英国の音楽史が一本の線でつながると・・・、これまでにない別の英国史が描けそう。(しかしヘンデルは王室に近づき認められたとはいえ、やっぱり外様であり、最後まで呼称はミスターだったらしい。そのあたりに王室の排他性もみられる)

そんな流れから今夜は突然ケイト・ブッシュ。なぜ?
時空を超えた空想からルーリー&コンソート・オブ・ミュージックによるジョン・ダウランドのリュート歌曲を聴いていて閃いた。これらの音楽が持つ官能性は20世紀のブリティッシュ・ロックの世界に間違いなく引き継がれているのではと。中でもケイト・ブッシュの世界に極めて近い(あくまで独断と偏見、私的感性による結論であり、特に根拠はない)。

Kate Bush:The Sensual World

1989年リリース。
僕のロック音楽史はほぼこの辺りでストップしているが、四半世紀を経た今聴いてもまったく廃れない。(いや、僕の感覚が古いだけかもしれないが・・・笑)
何と言ってもケイト・ブッシュの天使のような(?)声と音楽的センスが不動。しばらく追ってないので、最近の彼女がどうなのかはよく知らないけれど・・・。

そしてまたダウランドに戻ると・・・、実につながる・・・。
ということはその背面にはバードやタリス、もちろんヘンデルの影もあるのだろう。
そんな視点で古今の英国音楽を「垣根をはずして」愉しんでみる。


2 COMMENTS

木曽のあばら屋

こんにちは。
“Sensual World”の歌詞は、ジェイムズ・ジョシス「ユリシーズ」の
結末の数ページをそのまま使用・・・したかったのですが、
著作権者から許可が取れず、しかたなく別の歌詞で発表されました。
しかし諦めきれなかったケイト、最近ふたたび「歌詞に使わせてくれませんか?」とたずねたら、
あっさりOKが出て、ケイト大喜び。
タイトルも”The Flowers of Mountain”に変えて録音し直しました。
それならついでにと、ちょっと納得いってなかった過去の2枚のアルバムから何曲か選んで録り直したのが
“Directors Cut”(2011)というアルバムです。

ただ正直、もとの”Sensual World”の方が良かったような気も・・・。
単に耳に馴染んでるからかもしれませんが。

http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/directorscut.htm

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岡本 浩和

>木曽のあばら屋様
ご教示ありがとうございます。
Kate Bushに関しては”Red Shoes”までは聴いておりましたが、”The Sensual World”にまつわる話は初めて知りました。興味深いです。
なるほど、最近セルフカバーしてたんですね。
おっしゃるようにオリジナルの方が・・・、となるのでしょうが、ここは聴いてみないと話にならないので手に入れてみます。記事のご紹介もありがとうございます。時々拝見させていただいているのですが、Kate Bushのものは見落としておりました。
今後ともよろしくお願いします。

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