Bob Dylan “Planet Waves” (1974)を聴いて思ふ

bob_dylan_planet_waves668ディランは沈黙を守っているのだという。
いかにも彼らしい。いっそのことこのまま何もなかったかのように「風に吹かれて」素通りしてもらえると面白いのだけれど。

接触を試みたが、もうやめた。ただ近しい人から友好的な返事をもらっていて、現在のところはそれで十分です。
~2016年10月20日付朝日新聞「天声人語」

アカデミー事務局長が地元ラジオで語った言葉らしいが、さすがのディランもノーベル賞となると、拒否する理由がないのかもしれない。どういう言葉を発すれば良いのか思案しているのか、あるいは単に照れ臭いだけなのか、いやはや、やっぱり文学賞というのはおこがましいとでも謙遜があるのか。いずれにせよ今後の動向が興味深い。

詩人ボブ・ディランがザ・バンドとレコーディングした「プラネット・ウェイヴズ」は、40余年を経た今も新しい。何よりバンドに徹するザ・バンドの音楽性がディランのそれを完璧に支え、一層美しいものにしていること。最高のシナジーがここにはある。例えば、息子のために書いたという”Forever Young”(いつまでも若く)は、2つのヴァージョンが収録されており、どちらもが彼らしい祈りと勢いに溢れる。

神の祝福がいつまでもあなたにありますように
ねがいごとがすべてかないますように
いつもひとのためになりますように
ひとがあなたのためになりますように
星までつづくはしごをつくり
ひとつひとつの段をのぼり
あなたがいつまでも若くありますように
(歌詞対訳:片桐ユズル)

永遠の若さを保つボブ・ディランの歌はやっぱり不滅だ。

「いつまでも若く」はツーソンで書いた。ぼくは息子のひとりのことを考えながら、あまり感傷的なものにはしたくないと思いながら書いた。言葉はむこうからやって来て、あっという間に書けてしまった。時にはそのように与えられることがあるんだね。欲しいもの何かはっきりわからなくても、与えられるんだ。そうやってこの歌はできたんだ。ぼくが書こうと思って書いた歌ではない。ぼくは何か他のものを書こうとしていたのに、歌が自分で書いてしまったんだ。どんな歌が書けるのか、書いて見るまでわからない。次のレコードが本当につくれるのかどうか、それさえわからない。
(訳:三浦久)
~「バイオグラフ」00DP401-3ライナーノーツP110

これだから自分が思ってもいないところに至るのである。彼は選ばれし人。

Bob Dylan:Planet Waves (1974)

Personnel
Bob Dylan (guitar, harmonica)
with The Band
Robbie Robertson (guitar)
Rick Danko (bass)
Levon Helm (drums)
Garth Hudson (organ)
Richard Manual (drums, piano)

そして、ギターとハーモニカだけで奏されるシンプルな”Wedding Song”の赤裸々で直接的な表現に、ボブ・ディランの神髄を垣間見る。

あなたがいままででいちばん好きだ
時よりも愛よりも
金よりももっと愛しちゃう
空の星よりも
無謀よりも愛しちゃう
海上の夢よりも
生命それ自体よりも愛しちゃう
あなたはそれほどたいせつなのだ
(歌詞対訳:片桐ユズル)

極めて個人的な詩がいかにも万国共通普遍になるところがディランの奇蹟。
やっぱり「ノーベル文学賞」は相応しい。

 

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2 COMMENTS

雅之

本人が「ノーベル賞」などという上から目線の権威が嫌いで、居心地悪いんでしょうね。

>どういう言葉を発すれば良いのか思案しているのか、

夏目漱石のことを思い出しますね。

・・・・・・本日「ノーベル文学賞」を授與するから出頭しろと云ふ御通知が參つたさうであります。然る處小生は今日迄たゞのボブ・ディランとして世を渡つて參りましたし、是から先も矢張りたゞのボブ・ディランで暮したい希望を持つて居ります。從つて私は「ノーベル文学賞」を頂きたくないのであります。此際御迷惑を掛けたり御面倒を願つたりするのは不本意でありますが右の次第故「ノーベル文学賞」授與の儀は御辭退致したいと思ひます。宜敷御取計を願ひます。・・・・・・

などという、コメントを出したりして(笑)。  

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