Pink Floyd:The Piper At The Gates Of Dawn

七夕である。旧暦7月7日を指すものだから実際のところは七夕ではないのだけれど。
夕刻の突然の豪雨は気持ち良かった。すべてが洗い流されたようで。自然の恩恵。
織姫と彦星が1年に1度出逢うという日なのでベームの「ワルキューレ」(嵐の日に出逢ったジークムントとジークリンデは双子の兄姉であることを知らず互いにひと目で恋に落ちる)か、カラヤンの「トリスタンとイゾルデ」(言わずと知れた愛と死をテーマにした官能の物語)でも聴きながらロマンに浸ろうかと思ったが止めた。

何でも「知っている」という人がいる。わざわざ言う必要もないのに「知っている」と。しかし、本当に物知りは「知っている」とは決して言わない。いつも謙虚にどんなことでも学ぼうと、吸収しようとする素直さがある。
それこそ「知識」というものが「枠」を作り上げる典型。まずはよく聴き、そして受け容れること。そして、必要あらば取り込めば良いし、なければないでそれで良いではないか。

既に繰り返し何度も聴き込んできた演奏でも、聴くたびに必ず新しい発見がある。それはそうだ。一流の芸術家が丹精込めて創造したものなのだから必ずそこには「何か」が刻まれているというもの。だから音楽は、たとえレコードで聴くのみという行為であったとしても面白い(もちろん実演に触れた方がなお良い)。

ワーグナーの作品は巨大だ。誰のどの演奏でもいくら聴き込んでも絶対に「わかった」ことにはならない。音楽的にも物語的にも、そして思想的にも哲学的にも極めて深い。そんなに簡単にすべてが理解できて堪るか。多分一生仕事だ。

シド・バレットが7年前の今日亡くなったんだった。僕にはまったく関係のない事実だけれどせっかくだからサイケデリックの名盤とされるフロイドのファースト・アルバムを聴いた。ロジャー・ウォーターズがイニシアティブをとるようになった後のフロイドの音とは明らかに別物だけれど、やっぱり発見があり面白い。

Pink Floyd:The Piper At The Gates Of Dawn

Personnel
Syd Barrett (lead guitar & vocals)
Roger Waters (bass guitar & vocals)
Richard Wright (organ & piano)
Nick Mason (drums)

1960年代後半、当時のピンク・フロイドが頻繁に投げかけられていた質問、「サイケデリック・ミュージックってどういうもの?」に対してウォーターズは常々次のように答えていたという。

君も時々は違う人間になりたいと思わないかい。人間じゃなくってもいい、例えば鳥とか何かに。でも鳥になるのは不可能だろう?だから、鳥になったような錯覚を起こさせて、一時的に現実逃避をはかるのさ。それをドラッグじゃなくて、音楽でやろうというものさ。
(立川直樹著「ピンク・フロイド」P29)

なるほど。フロイド・ミュージックを総括するような言葉だ。しかし、その頃のシド・バレットはドラッグ中毒で、しかも神経衰弱に陥りつつあった。もはやグループの一員として機能することは不可能だったということだ。当時の他のメンバーが楽屋で交わしていた会話の一部。

「今夜もまたシドの奴は、ずっとひとつのコードを弾き続けてたぜ」
「でも、シドなしで俺たちがやっていけるわけじゃないだろう」
「ああ、オフィスの奴らはみんなシドが絶対だと思っているからな」
(立川直樹著「ピンク・フロイド」P27)

世の中に、いや、人間の生業に「絶対」などというものはない。これこそが当時の彼らの内に在った、自らが創り出した「壁」。シドがいなくなり、フロイドは完全に別物として再生した。シド・バレットのやったことは今でも賞賛に値することだが、でもやっぱり僕はデイブ・ギルモアが参加し、ロジャー・ウォーターズがイニシアティブをとったフロイドを好む。

それにしても”Interstellar Overdrive”というのは恐るべきインスト・ナンバーだ。緊張感と集中力と。僕に言わせれば「弛緩」が一切ない。呼吸で言うなら「吸う」一方で、どうにも息苦しくなるほど(笑)。こういう音楽作りもシド・バレットの神経をすり減らした一因かも。

 


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