メニューインとアッカルドのパガニーニを聴いて思ふ

フランツ・リストが影響を受けた音楽家は、パガニーニ、ベルリオーズ、そしてショパンだと言われる。1830年代のパリを賑わした、いずれも革新的な音楽家たちである。リストはそれぞれからインスパイアされ、自らの内に吸収し、新しい音楽を次々に生み出してゆくのだが、中でもパガニーニから受けた衝撃は相当なものだったらしい。

ところが、僕はパガニーニの音楽に感心した試しがないのだ。もちろんパガニーニ本人の演奏を聴く術はあり得ないのでそのことは横に置いておくにせよ、それでも彼の創り出した楽曲がそれほど魅力的なものに思えない。これはおそらく、その時代その場に居合わせることでのみ体感できた「魔法」あるいは「奇跡」なんだと僕は確信する。

録音及び音響装置は音楽を学習する、また享受する上でとても便利な機械だ。人間の技術力の賜物だけれど、でもやっぱり自然には敵わない。ウラジーミル・メグレ著「アナスタシア」を読んでいて、人間が、生まれたその日から「人工的なものに晒され」、月日を経るごとに「自然」「本来ある姿」から遠ざかってゆくんだということをあらためて確認した。すべての技術は人類の英知が詰まったものだけれど、所詮すべては「作り物」だということ。よって、音楽を聴く際も、本当に癒しを求めるなら、本当に感動したいなら実演を聴く以外にない。その意味で録音物はあくまで予習のための道具に過ぎない。

ニコロ・パガニーニの演奏には魔物が宿っていたのか?あるいは神が微笑んだのか?
そのあたりはもはや想像しながら音楽に浸るしかない。
例の「鐘」のモチーフをもつヴァイオリン協奏曲を聴いた。メニューインの独奏。その後、アッカルドの独奏で小品2つ。美しい音楽・・・。

パガニーニ:
・ヴァイオリン協奏曲第2番ロ短調作品7
ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
アルベルト・エレーデ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1960.10&11録音)
・ロッシーニの「モーセ」の主題による変奏曲
・「ヴェニスの謝肉祭」の主題による変奏曲
サルヴァトーレ・アッカルド(ヴァイオリン)
フランコ・タンポーニ指揮ヨーロッパ室内管弦楽団(1983.12録音)

ニコロ・パガニーニも舞台では超絶的な即興を見せたのだと想像する。
まるでその場、その瞬間に音が紡がれて、美しい音楽へと変貌してゆく様がそれを聴く者に大変な衝撃を与えたのだろう。そもそも変奏曲というものが与えられた主題を基に音楽を縦横に変容させていくものゆえ。当時、一世を風靡していたロッシーニの主題に変奏を加えていくのだからそれを人々はとても喜んだことでしょう。
確かにいまここに流れている音楽は電気を通したものだ。だからと言って全面的に否定するつもりはない。「真実」のたとえ数パーセントでも音盤によって表現されているならそれで良い。実際、アッカルドのヴァイオリンはとても繊細で、とても可憐だ。不思議にも極めて女性的な匂いの音が飛び交うのだ。
パガニーニもリストも大変な色気があっただろう。特に女性は放っておかなかったはず。そういう音楽を再現するのに演奏者の内面の色艶はとても大事。その一方、メニューインのヴァイオリンは堅い。残念ながら響かない。

 


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