ビーチャム卿の「幻想交響曲」を聴いて思ふ

若きフランツ・リストが影響を受けた音楽家は、ニコロ・パガニーニ、フレデリック・ショパン、そしてエクトル・ベルリオーズ。いずれも類を見ない革新者。中でも、ベルリオーズの傑作「幻想交響曲」は1830年当時のパリに途轍もない衝撃をもたらした。
交響曲初演の前日、すなわち1830年12月4日、ベルリオーズはリストと初めて会う。

この演奏会の前日に、リストが私に会いに来た。このときまでわれわれは面識がなかった。私はリストに、ゲーテの「ファウスト」の話をしたが彼はまだ読んでいないといった。やがてリストは、私同様に、「ファウスト」に熱中することになる。2人は互いに強い共感を分かち合った。以来、われわれの友情は、より緊密に、より強力なものになってゆくばかりであった。リストは演奏会にやって来て、すべての聴衆に抜きんでて熱烈に称賛を表明し喝采を送ってくれた。
丹治恒次郎訳「ベルリオーズ回想録」

リストは12歳の時、パリ音楽院への入学依頼のため院長であったケルビーニを訪問したが、受理してもらえなかった。それは、音楽的才能が理由ではなく、当時の音楽院は外国人の入学を許可していなかったことによる。しかし、生涯型破りな、革新的な音楽を生み出し続けてきたリストにあって、真正面からの教育をきちんと受けなかったことが結果的に彼の内に「革新性」をもたらしたものと思われる。人生というのは結果的に何が幸いするかわからぬもの。

そして、弱冠19歳のリストの前に「幻想交響曲」である。いわゆる「標題性」と「固定楽想」というそれまでにない方法にリストは釘付けになり、すぐさまピアノ・スコア化。
そういえば、僕も19歳の頃「幻想交響曲」に打ちのめされ、寝ても覚めても「幻想」という時期があった(なるほど、確かにこの世の中はすべてが「幻想」ですけど・・・笑)。

さて、ビーチャム卿ボックスから。
予想通り凄まじい。この英国人指揮者の音楽は国境を完璧に超える。ゲルマン的なものもラテン的なものもすべてをあわせ飲み、まるで音楽の内側から真の魂だけを抜き出し、僕たちの前に指し示すかのよう。

ベルリオーズ:
・幻想交響曲作品14
サー・トマス・ビーチャム指揮フランス国立放送管弦楽団(1959.11.30-12.2録音)
・序曲「海賊」作品21(1958.11.7録音)
・歌劇「トロイアの人々」~トロイア行進曲(第1幕)(1959.11.19録音)
・歌劇「トロイアの人々」~王の狩りと嵐(第4幕)(1957.3.23録音)
ビーチャム合唱協会
サー・トマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

第2楽章「舞踏会」。何とまぁ優雅な・・・。夢見るようなシーンが眼前に現れる。
第3楽章「野辺の風景」のコーラングレによる牧笛の確信的な(?)哀愁。
僕は第4楽章「断頭台への行進」にいつも恐怖を覚える。このあたりがベルリオーズの「幻想」を音化する類稀な力量だが、特に最後に恋人の固定楽想が現れ、オーケストラの全奏によって吹き飛ばされるシーンが聴きもの。とにかく金管の咆哮がものを言う。
そして、第5楽章「ワルプルギスの夜の夢」における「怒りの日」の旋律が出る瞬間のカタルシス・・・、堂々たる風格・・・(コーダも急がず慌てず実に地に足が着きぶれない)。

 


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