中島剛さんのピアノを初めて聴いた。リハーサル中からとても清らかで澄んでいて、リストの魂の核心に触れるような想いがした。
ハンガリーのフランツ・リスト音楽院の出身である中島さんは、先生の師がジョルジュ・シフラだそうで、ということはリストその人の直系ピアニストということになる。彼の奏でる音楽は実に華麗で、エネルギーが外に向く。快演である。
ナビゲーターという立場上、舞台袖ですべてを聴かせていただいたが、安定感抜群で、彼がリストの音楽を本当に愛しているんだということが伝わってきた。と同時に、僕自身も今宵の「場」の力によりリストの音楽の意味が本当によくわかったといえる。感謝。
中島剛ピアノ・リサイタル
2013年8月15日(木)19:00開演
杉並公会堂小ホール
オール・リスト・プログラム
・愛の夢第3番変イ長調~3つの夜想曲
・ラ・カンパネラ(パガニーニ大練習曲第3番嬰ト短調)
・「巡礼の年第2年『イタリア』」~
ペトラルカのソネット第47番
ペトラルカのソネット第104番
ペトラルカのソネット第123番
ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」
休憩
・ピアノ・ソナタロ短調
アンコール~
・中島剛:サマースケッチ
・J.S.バッハ:シチリアーノ~フルート・ソナタ第2番ト短調BWV1031(ケンプ編)
前半、「愛の夢」で会場の空気を整え、聴衆をリストの世界に誘う。
この音楽はまさに「博愛」の音楽だ。誰もが愛すべき美しいメロディに溢れる。直後、フェルディナント・フライリヒラートの詩を朗読し、この作品の背面にある想いを僕なりに語らせていただいた。人類がひとつになるべきだという想いを秘めたこの作品をちょうど終戦の日に捧げるつもりで。そして、リストの性格、あるいは生き様を。
「ラ・カンパネラ」も「巡礼の年第2年」からの数曲も、僕が想像する以上に敬虔だ。リストの信仰心が如実に表現される。しかし、それは中島さんのピアノの響きによるところが大きい。何て巨大で、何て慎ましく、何と余裕のある音が奏でられることか!「ダンテ・ソナタ」の轟音には腰を抜かした人もいるのでは?「神曲」の印象を音楽に託したリストの祈りとも言うべき凄まじい音楽。
休憩を挟み後半。
冒頭、リストの最高傑作とも言うべきロ短調ソナタに関する僕の想いをほんの少しお話しさせていただいた。ベートーヴェンの「喜びの歌」の衣鉢を継ぐ森羅万象の音化。すべてはひとつであるという思想の楽音化。160年前の当時の人々になかなか受け容れられなかったこの音楽が、杉並公会堂小ホールに響き渡った瞬間に聴衆は固まったことだろう。クライマックスに向けての得も言われぬ轟きとカタルシス。素晴らしい音楽だ。
アンコールは中島さん自作の「サマースケッチ」とバッハの「シチリアーノ」。
聴衆にも途轍もない体力と精神力を強いるソナタの後に響く可憐で美しいメロディ・・・。
ご来場の皆様にもとても喜んでいただけたようだ。ありがとうございます。
一世一代のフランツ・リスト。脱帽。
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