読響第160回東京芸術劇場マチネーシリーズ ラーンキ&上岡敏之のブラームス

kamioka_yomikyo_20131124何と濃厚でロマンティシズム溢れるブラームスであることよ!彼の音楽は晩秋に似合うと言うが、実に初夏の印象すら受けたブラームス。お見事。
楽想における緊張と弛緩の連続。しかも最果てにその2つが統合され、得も言われぬ瞬間が訪れるのを僕は体感した。座席は舞台下手側2階前列、つまり、オーケストラを右手から俯瞰し、ピアニストの背を拝むという位置。おかげで上岡敏之の指揮姿、表情までを克明に観察することができた。ほとんど歌舞伎役者のような見得の切り方と、まるで岡本太郎然としたその表情が真に興味深かった。なるほど、あの音楽の源にはこういう仕草、姿勢があったんだ・・・。

読売日本交響楽団第160回東京芸術劇場マチネーシリーズ
東京芸術劇場
2013年11月24日(日)14:00開演
デジュ・ラーンキ(ピアノ)
デヴィッド・ノーラン(コンサートマスター)
上岡敏之指揮読売日本交響楽団
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
休憩
ブラームス:交響曲第3番ヘ長調作品90

誠実で堅実なピアノ。ブラームスのピアノ音楽は、女性的な内面に比して技術的には男性的なパワーを要するものだと思うが、オーケストラとの音量バランスも絶妙で、音楽的にも極めて優れ、美しい瞬間が多発、得も言われぬ恍惚の時間があっという間に過ぎた。4つの楽章すべてにわたって音楽は安定し、ピアノの技巧も申し分なかった。
第1楽章アレグロ・ノン・トロッポの冒頭ホルンの主題から惹き込まれた。特に、再現部におけるピアノとの掛け合いの妙味といったら・・・。第2楽章アレグロ・アパッショナートはラーンキが音楽をリードする。この内燃する「情」にはクララへの激烈な愛が潜むのか。続く第3楽章アンダンテの柔和な音楽よ。ゲストの首席チェロ奏者宮田大のソロのまろやかな響きとラーンキのピアノの強靭なタッチの対比がまさに柔と剛を表しており、その優しさにうっとり、心を奪われる。何より中間部の沈潜してゆくピアノの調べに被さるようにチェロ独奏のテーマが再現されゆくシーンはさながらヨハネスとクララの間にあった愛の心象風景の実写のよう。ほとんど間髪入れずに進められた終楽章も圧倒的。
ちなみに、後半の第3交響曲で一層明らかになるのだが、ティンパニの骨太の有機的な轟きはズシンと第2チャクラ(肚)に響くほどだった。

20分の休憩後、ヘ長調交響曲。上岡の暗譜での指揮姿に惚れ惚れする。特に、ティンパニへの指示出しの際の大仰さがツボにはまる。第1楽章からテンションは一気に最高潮に達し、楽章が進むにつれ音楽が一層昂揚する。第2楽章アンダンテに寂しさはない。どこか南国イタリアのさわやかな風が吹くかのような暖かさ。各楽器の独奏も巧く、ブラームスの心が絶妙に描かれてゆく。第3楽章ポコ・アレグレットなどはもう少し感情移入のある、粘っこい音楽が聴かれるのかと想像していたが、意外に淡白。そして何より圧巻は終楽章だ。ここぞとばかりに指揮者の棒が炸裂し、ブラームスの魂が全開となる。音楽が最後の第1楽章第1主題の再現に向かって少しずつ収斂してゆく様は、すべてがひとつにつながりゆく様子を絵に描くかのようで聴く者を金縛りに遭わせる。真に興奮の極み。ここには必然があるのだ。

ところで、前半の協奏曲の第3楽章の最中、最初のチェロ独奏の時、そして再現でのチェロ独奏時の2回とも会場内でちょっとした騒音。よりによって、という箇所だったので少々興醒め。聴衆の皆様には気をつけていただきたいものです。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

読売日響は、27日、サントリー・ホールで小林健一郎さんの指揮、ゲルハルト・オピッツのピアノでブラームス、ピアノ協奏曲第1番、交響曲第4番をやります。私も聴きに行きます。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
27日はサントリーでオピッツですよね!
その日は伺えないのですが、きっと素晴らしい演奏が繰り広げられるように思います。

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