オーケストラ・ダスビダーニャ第21回定期演奏会「バビ・ヤール」ほか

dasubi_babiyar_20140211感動した。ドミトリー・ショスタコーヴィチは天才なり。映画音楽が軽いものだと侮っていた自分が恥ずかしい。バンダやテルミンを伴った大管弦楽の怒涛のような轟音。各楽器に与えられたショスタコーヴィチならではの独奏の美しさもさることながら、ダスビダーニャという名のオーケストラの合奏能力の高さに舌を巻く。そして何より、団員ひとりひとりの作曲者への愛の賜物だと思うが、音から発せられる波動の強烈さ、あるいは高貴さ。最初に奏された「女ひとり」第4曲「行進曲『大通り』」のファンファーレからぶっ飛んだ。第18曲「小屋の中のクズミナ」に、ドヴォルザークの「新世界」交響曲第2楽章のあの有名な旋律のこだまを僕は見た。あるいは、第36曲「吹雪」における自作の第8交響曲第3楽章の阿鼻叫喚の楽想が聴く者の肺腑を抉る。ここでのテルミンの何とも神妙な響きは大自然の壮大さ、人間の手には決して負えない大きさを感じさせるもの。
ちなみに、前半終了後テルミンによって演奏された映画音楽「馬虻」から「ロマンス」の美しく映える優しい音楽。これぞ怒れるショスタコーヴィチと沈思するショスタコーヴィチの見事な対比。

オーケストラ・ダスビダーニャ第21回定期演奏会
2014年2月11日(火・祝)14:00開演
すみだトリフォニーホール
ショスタコーヴィチ:映画「女ひとり」の音楽による組曲より抜粋
・第4曲 行進曲「大通り」
・第6曲 ギャロップ「素晴らしい生活が待っている!」
・第10曲 行進曲
・第18曲 小屋の中のクズミナ
・第20・21曲 イントロダクション~学校の授業
・第22曲 ベイが子どもたちを牧場へ連れ帰る
・第35曲 ステップ(草原)を吹く風
・第36曲 吹雪
・第37曲 嵐の後の静けさ
・第44曲 クズミナの救出と飛行機
・第45曲 フィナーレ
~アンコール
・映画音楽「馬虻」作品97~ロマンス
濱田佳奈子(テルミン)
休憩
ショスタコーヴィチ:交響曲第13番変ロ短調作品113「バビ・ヤール」
岸本力(バス)
コール・ダスビダーニャ(合唱)
長田雅人指揮オーケストラ・ダスビダーニャ

後半の「バビ・ヤール」。良かった。とはいえ、僕の中では残念ながら大手を振って絶賛、無条件に感動というわけにはいかなかった。この曲は、言葉の比重が大きい分表現力含め演奏至難なんだろうと想像した。間違いなく熱演なのだが、音楽が進行するにつれ、どこか集中力が欠け(聴く側の)、聴く者に「冷静さ」を喚起するものになっていったことが否めない。

演奏者はショスタコーヴィチを心から愛する人たちであるゆえ、共感が足りないはずがない。しかしながら、その共感がどうしても頭で考えた上でのもののように思えてならなかったのだ。つまり、僕たち日本人には、当時虐殺の目に遭ったユダヤ人の気持ちを心から理解、受け容れることははっきり言って困難なのではと。「バビ・ヤール」でいうなら、エフトゥシェンコの詩に共感したショスタコーヴィチの心には決して近づけない大きな壁が厳然と存在するのである。音楽には共感できても、言葉に、詩に共感するには言語だけでなく、時代背景、習慣、宗教などあらゆるものが脳に刻み込まれていないと・・・。

バス独唱の岸本力氏の舞台姿はしびれるほど素晴らしかった。懸命にこの作品を表現しようとする思いが伝わってきた。それでも、声量がどうしても伴わないシーンが多々あり、この音楽を芯から聴衆に表現し切るには少々苦しかったのかもしれないとか・・・(そのように僕には見えた。失礼ながら)。

ここまで書いてざっとパンフレットを眺めた。ダスビダーニャの定期演奏会で配布されるパンフレットは実に内容が濃い。これをもってやっぱり皆さん「ショスタコ命」なんだということが手に取るようにわかるほど。
なるほど、「バビ・ヤール」はヒトラーを体験してしまった後の人類のための「第9」なのだと。膝を打った。演奏の細かい瑕を云々する場ではないのだ(当たり前だ)。それこそ舞台に乗る者、舞台裏で支える者、舞台を聴く者、すべてのショスタコーヴィチ愛好者が「バビ・ヤール」という音楽を通じてひとつになる、そして、そういう思いを全人類に向けて発信するそういうお祭りの場だということ。言葉の壁を超えての共感と同胞意識の喚起。「歓喜の歌」なのだ。その意味では最高の2時間だった。

ショスタコーヴィチは実演でないと絶対にわかり得ない。特に、滅多に演奏機会のない映画音楽の類など実際の舞台に触れない限りその真価はわかるはずがない。もっともっとショスタコーヴィチの未知の音楽に触れてみたいと思った次第。

 


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