本当のさいわい

sibelius_4_segerstam.jpgかつての湯治場の風情がそのまま残されている岩手県花巻温泉郷にある大沢温泉でかけ流しのお湯を堪能した。まるでタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれる。山間の里に何百年と続いている温泉旅館らしく、地震が来たらいっぺんに吹っ飛んでしまうのではないかと思われるほどの建物の古びた佇まいの中にも、切り盛りするスタッフの丁寧な対応と何気ないホスピタリティがところどころに感じられ、人の温かさにも触れることができた充実の2日間であった。誰にも邪魔されず、自由気儘に休日を過ごせるところが嬉しい。ちなみに、この温泉には宮沢賢治も少年時代から頻繁に訪れていたようで、きれいにライトアップされた木々を眼前にして半露天風呂「豊沢の湯」に浸かりながら、「銀河鉄道の夜」に想いを馳せる・・・。

「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。

oosawa_onsen.jpgいくつかのお湯を巡り、友人たちと多少の酒を酌み交わしながら、日常の瑣末なことから離れて、ゆっくりと過ぎ行く時間に身を任せる・・・。昼前、携帯電話が壊れた。まる一日久しぶりに携帯電話のない生活をしたが、落ち着かない。特に重要な連絡が入る予定もないといえばないのだが、何だか手持ち無沙汰なのだ。世の中すべて便利になって進化しているようだが、「ケータイ」に依存している自分自身を確認すると、「こういうのって(人間力的には)退化だな」とふと思う。ほんとうのさいわいは一体何だろう。

「銀河鉄道の夜」というと、吉松隆氏じゃないがシベリウス。あの漆黒の闇の中から冷たくもほんのりと温かみを秘めた一条の光を感じる北欧の巨匠の音楽がぴったりなのだ。

シベリウス:交響曲第4番イ短調作品63
レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

シベリウスの作品中、もっともわかりにくい音楽。しかし、ひとたび「わかる」とこれほど深みのある愛に満ちた音楽はないと思えるほどだ。
ほんとうのさいわいは一体何だろう・・・。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
私も吉松隆氏の影響も受け、だいぶ長い間、シベリウスの交響曲、中でも「第4」が一番好き!という時期がありました。今でもブルックナーよりシベリウスの「第4」以降のほうが無駄がなく、はるかに好きです。ちなみに吉松氏の言われるように、CDのカップリングは、「第4」は「第5」と、「第6」は「第7」「タピオラ」と、これが最高のつながりだと思います。
「第4」、宮沢賢治と言われると、地球の悠久の時を想い、鉱物採集の趣味を久しぶりにやりたくなります(笑)。
ケージの「4分33秒」、武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」、シベリウスの「第4」、どこかでこんなプログラムのコンサートはないかなあ?「無」は「有」であり、「有」は「無」である。ほとんど禅問答か量子力学の領域ですが、こういう芸術の究極の世界、憧れます。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>今でもブルックナーよりシベリウスの「第4」以降のほうが無駄がなく、はるかに好きです。
おっしゃるとおりです。最高ですねシベリウスの「第4」以降は!
>CDのカップリングは、「第4」は「第5」と、「第6」は「第7」「タピオラ」
まさに!CDのカップリングも、なかなかそういう理想のってみつからないですよね。
>鉱物採集の趣味を久しぶりにやりたくなります
鉱物採集ですか?!雅之さんは多趣味でひとつひとつに造詣が深く畏れ入ります。
>ケージの「4分33秒」、武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」、シベリウスの「第4」、どこかでこんなプログラムのコンサートはないかなあ?
おー、すばらしい!同感です。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » 思相(おもあい)

[…] ジャン・シベリウスについてはベルグルンドやネーメ・ヤルヴィ、新しいところではセーゲルスタムがヘルシンキ・フィルと録音したものを愛聴しているが、それらの「北欧型演奏」とは正反対の、南国の熱帯雨林のような様相を呈するバーンスタインの表現も、シベリウスのある一面だと捉えられなくもなく、繰り返し聴くたびに「発見」があり、閉ざされた世界において、不信に満たされた人間関係において、自ら心を開けっぴろげにしてみると意外にすんなりと「わかり合えるものなんだ」ということを諭してくれるよう。 […]

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